第175幕
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『おやじさん、無事成仏したのか?』
「さぁな。したんじゃねぇの?」
ふらついていた魂は元通り身体の中へと入り、海達は目を覚ました。
その頃には定食屋のおやじは満足気な一言を残して成仏していた。
火葬を終えたあと、おばさんは寂しそうに、でもどこか嬉しそうにしていたのを銀時は見ていた。
「(おやじの幽霊は俺たちしか見えてねぇはずたよな?)」
あの一連の騒動は土方と銀時にしか見えていないはず。おばさんにはおやじの遺体を探すのに力を貸してもらったが、始終おやじのモノに対して手酷かった。
おやじのモノになにか恨みがあったのかと思うほど。
『夢、見てたんだ』
「夢?」
おばさんから隣に立つ海へと視線を戻す。海は懐かしげな表情をしていた。
『初めて定食屋のおじさんに会った時の夢』
「それで?」
『まだあの頃は真選組なんかに入っていいのかって。幕府の懐なんかに入り込んでも大丈夫なのかって心配してた』
攘夷志士だった己が幕府の元で生きてもいいのか。そう打ち明けた海は辛そうに眉を顰めて地面を見つめる。
『初めての見回りで疲れて、飯食おうと思って入ったのがおじさんがやってた定食屋。最初、熱々のうどん出されて……食べれなくて。冷めるの待ってたら笑いながら小皿出してくれてさ』
あぁ、この子は確か猫舌だったか。
忘れかけていた海の欠点を思い出して銀時はふっと口元を緩ませた。
『その日から飯食いに行く時は毎回小皿出されるんだよ。熱かったら小皿に分けて冷ましなって。そんなこと何回かやっていくうちにおじさん、俺が食べれる温度で飯出すようになってさ』
「そりゃ何回もそんなことしてたらそうなるだろ。バカみてぇに気の利くおやじだったからな」
『うん。……もうあのうどん食べられないんだよな』
おじさんの優しさがこもったうどんはもう二度と食べられないのだ、と呟いた海は寂しげに空を見上げた。
「そうだな」
世話になっていたのは海だけではない。銀時もあのおじさんには世話になっていたのだから。最後にとんでもない事をしてくれたが。
『さて……俺らも帰るとするか』
ちらほらと解散していく参列者たちを見た海が銀時の背中を押す。その顔にはもう憂いはなく、ただ真っ直ぐと前を見つめていた。
「あいつらはいいの?」
振り返った先は近藤たちの方。土方が朔夜と何か言い合っているのが見える。
『いいだろ。今日くらい勝手にさせてくれ』
銀時の手を引いて歩き出す海にそれ以上何も言わなかった。
ただ、真選組よりも自分を選んでくれた事が嬉しくて、銀時は海にバレないように笑った。
.