第184幕 裏有
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『もう始まってるよな……』
パタパタと走る海は銀時に教えられていた居酒屋を目指していた。
約束していた時間から数時間経っていて、申し訳なさでいっぱいだった。
せっかく誘ってくれたのに遅刻してしまうなんて申し訳なさ過ぎる。きっともう皆酔いが回って気持ちよくなっている頃だろう。そんな時に入って邪魔にならないだろうか。
沸々と湧いてくる不安に海の足は遅くなる。
『帰ったら土方シバく』
ムッとした顔で海は土方へと恨み言を呟きながら足を動かし続けた。
本来ならばもう少し早く店へと行けていた。海が持っていた書類は午前中のうちに終わらせてあり、見回りも他の隊士に頼んで代わってもらった。
海のするべき作業はもう無いと思っていたのだ。だから屯所を出る間際まで暇だからと本を読んでいた。
本を読むのをやめて少し早く屯所を出ていれば声をかけられなくて済んだかもしれない。いや、なんなら自分の仕事が済んだ時点で出ればよかった。
そうすれば、屯所を出ようとした瞬間に土方に声をかけられずに済んだ。総悟が隠していたという書類に付き合わされることは無かったかもしれない。
後から出てくる後悔に海の怒りゲージがみるみる溜まっていく。恨みの矛先は書類を溜めていた総悟でもあるが、今日出かけると知っていた土方にも向けられている。
『クソマヨラーが!屯所にあるマヨネーズ全部処分すんぞ!!』
総悟と土方で終わらせればいい書類に海まで巻き込んだのだ。暇なら手伝えと。これから用があるから無理だと言っている海を半ば強制的に副長室へと連れ込み、書類を手渡してきた土方。
『クソマヨラー!!ハゲちまえ!!』
悪態つきながら走る海に周りの人達は何事かと足を止めて海を振り返る。そんな人たちに目もくれず海はひたすら走り続けた。
漸く居酒屋についた時には約束の時間から三時間経過していた。
店の戸を開けて中に入ると、若い女性店員が声をかけてきた。
「おひとりですか?」
『いや、今日ここで宴会をしてるって聞いて来たんですが』
「坂田様の……」
『あっ、そうです』
「お部屋へ案内いたしますね」
『すみません、ありがとうございます』
にこやかに笑う店員の後を追って歩いていく。すると、廊下の先にある部屋からゲラゲラと笑う声が聞こえてきた。
『……騒がしいですね』
「えっと……お酒が入っているので気分が良いんだと思いますよ」
それにしても騒がしすぎる。まだ部屋についてもいないのに聞こえてくる声に海は眉間にシワを寄せた。それは他の客も同じようで、銀時たちが使っている部屋のすぐ隣を使っていた人達が皆嫌そうな顔をしていた。
「こちらになります」
『ありがとうございます』
襖の前までくるともう耳を塞ぎたくなるほどうるさかった。店員は苦笑いをしながら「ごゆっくり」と一言だけ残してそそくさと部屋の前から立ち去っていった。
『ハメを外しすぎだろ』
こんな遅くに来てしまって大丈夫だろうかという不安はもうどこかへ飛んでいってしまった。今はこの騒がしさをどうにかしなくてはという使命感。
襖に手をかけて小さく深呼吸。海は意を決して襖を開けた。
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