第183幕
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「兄さん!!」
ガバッと雪の中から頭を出して海に声をかける。周りを見渡して海の姿を探してみたが一面真っ白。
「に、兄さん!兄さん!!」
さーっと血の気が引いていくのを感じながら朔夜は木の上から落ちてきた雪を掻き分けて海を探した。
手袋を近藤に貸してしまったせいで素手で雪を掘らなければいけない。冷たい雪は手から温度を奪っていった。
「兄さん……!兄さん!」
『そんなに呼ばなくても聞こえてるって』
「あっ……に、いさ……」
漸く見えた海はじとりと朔夜を見ていた。寝転んだまま動こうとしない海に不安がつのる。
『雪の布団ってのもオツなもんだな』
「そんなことしてたら風邪ひいちゃうよ!早く土方さん達のところに戻ろう?」
海の手を掴んで引っ張ろうとしたが、海は中々動かない。それどころかその場から動きたくないとでもいうような顔をしていた。
「兄さん?!」
『朔夜、悪い。ちょっと銀時呼んできて』
「え?なんで坂田さん?」
『ちょっとな』
雪の上に寝転んだまま海はぽつりと呟く。
どうして銀時を連れて来なくてはいけないのか。会いたいなら自分で会いに行けばいいのに。
「きっと坂田さんも兄さんが戻ってくるの待ってるよ。だから一緒に行こう?」
『一緒に行くのはちょっと難しいんだわ』
「どういう意味?」
『……痛みが酷すぎて動けない』
「痛み……?」
どこか怪我をしたのかと海の頭から足の方を見てみたが出血しているところはなかった。じゃあ、どこを?と首を傾げた時、海の背中にぶつかっている木が見えた。
「まさか……」
『こいつにぶつかったから止まったんだけど、衝撃が強すぎてな。暫く動けそうにないんだわ』
だから銀時を呼んできてくれ、と苦笑する海に朔夜はすぐには頷かなかった。
「僕が兄さんを上に運ぶよ」
『朔夜が?』
「僕のせいで兄さんがこんな事になったんだ。だから僕が運ぶ!」
『無理すんなって。どれだけ下に落ちてきたのかわかんねぇんだぞ?』
「やるったらやるの!」
どれだけ文句を言われても構わない。海を運ぶのは自分なんだと言い続けると、海はなにか言おうと口を開いたが、言葉としては伝わらなかった。
「ぐっ……」
『だからやめとけって言っただろうが』
「だ、大丈夫だからッ」
『どこがだよ……』
頑張って海を抱え上げたが、そこから一歩も動けない。自分よりも身長のある海を抱えているというのもあるが、雪の上という足場の悪い環境で上手く歩み出せなかった。
「(どうしよう……でも、こんなところにいつまでも兄さんを放っておけないし……!)」
『朔夜』
どうすれば良いかと海を抱えたまま悩んでいたら、ひやりとしたものが頬へとそえられた。
『もう降ろせ』
「やだ……だってこのままじゃ……」
『いいから。降ろせ』
頬にあるのは海の手。氷のように冷たくなってしまった手に驚きつつ、海の言う通り雪の上へと降ろした。
『待ってるから。ここで』
「でも……」
『ここで悩んでてもしかたないだろ。だったら朔夜が銀時たち見つけて連れてきてくれた方がいい』
「……っ!」
『な?』
海の手は頬から頭へと移動して優しく撫でられる。そこで漸く朔夜は首を縦に振った。
「すぐ呼んでくるから……どこにも行かないでここで待ってて。必ず見つけてくるから」
『ん、頼んだ』
後ろ髪ひかれる思いで海に背中を向けて走り出した。
早く銀時たちを探さなくては。海が凍死してしまう前に。
「待ってて……!絶対見つけてくるから!!」
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