第181幕
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『土方、旅行ってなんだっけ?』
「さぁな」
松平に強制的に連れてこられたスキー場で、海と土方は上空を飛んでいるヘリをじっと見つめた。
ヘリから紐で吊るされているのは、将軍である徳川茂茂。スノボーを足に着けたまま空を飛ぶ姿に言葉をなくした。
「だから言っただろう?絶対なんかあるって。何が慰安旅行だ。何が羽を広げてこいだ。こんなもんただの将軍のお守り旅行じゃねぇか」
『そう言うなよ。将軍が行きたいって言うのであればどこへでもお供する。護衛しなきゃなんねぇのは分かってることだろ』
「護衛つったって限度があんだろうが」
その言葉に海はグッと言葉を飲み込んだ。
海としてはこれで三回目である。最初はキャバクラについて行った。あの時は王様ゲームで肝が冷えた。
二回目はプール。仲間内に入りたいと言った将軍をフォローするのに銀時が色々と手を焼いていたのは覚えている。
というか、将軍が行く先々に銀時がいるような気がするのは気のせいだろうか。
『流石に今回はないか。スキー場だし』
「あ?何か言ったか?」
『いや、なんでもない』
あいつにそんなお金があるとは思えない。常に金欠のような男がこんな場所に来れるはずもない。ここに来る余裕があるなら少しでもお登勢に家賃を払えと叱るだろう。
神楽にもちゃんと飯を食わしてやり、新八に給料を払えと。
『……なんかアイツらのことばっかだな』
将軍の護衛に来ているというのに考えていることはほぼ銀時達のこと。今頃何してんのかな、なんて考え始めた頃には苦笑を漏らした。
「まったく、こんなんじゃ休めやしねぇ。海、しっかり将軍のこと見張っておけよ」
『はいはい』
かったるそうな土方に適当に返事をした。
ヘリで運ばれている将軍が着地地点へと近づく。何度か滑らせてやれば気が済むだろうと思っていた海と土方はじっと将軍が来るのを待った。
"土方さん"
不意に土方が持っていた無線機から総悟の声が聞こえた。
土方と顔を見合わせて首を捻りながら総悟へと返事をした。
「なんだ。何かあったか?」
"将軍の降下地点におかしなヤツが。でっけぇ雪だるま作ってて、かなり邪魔なんですが"
「お帰り願え」
『雪だるま?』
至極面倒くさそうな声色で無線を飛ばしてきた総悟に、土方も同じような声で返す。
「ったく、どいつもこいつも」
『…………』
「おい、海てめぇ何やってやがる」
無線機から目を離し、海はその場に座り込んで足元の雪を掴む。
素手で雪を掴んでいるせいで、ゆっくりと指先から冷えていく。それでも海は雪を掴むのをやめなかった。
『土方』
「あ?」
『雪だるま』
ずい、と土方に差し出したのは言葉の通り雪だるま。ちょこんとした手のひらサイズの雪だるまを土方はキッと睨みつけた。こんな時に何をしているのだと言いたがっている顔で。
『確かに将軍のお守りなんてめんどくせぇ仕事押し付けられて嫌んなるけどよ。こんな場所滅多に来れないだろ?だから少しくらいはこの状況を楽しんでみようかとな』
「こんなんで一体どうやって楽しむっつうんだよ」
土方の右手を掴んで雪だるまを乗せる。嫌がることなく受け取り、それをまじまじと見る姿に海は緩く笑みをこぼした。
『とりあえず暇だから雪だるま量産するわ』
「は?」
そう言った海は土方の足元に雪だるまをいくつも作り始める。せっせっと作る海を呆れた顔で見ていた土方だったが、段々と増えていく雪だるまに目元を緩ませた。
「海、もうその辺にしておけ……お前、手袋してねぇだろうが!」
『ん?あぁ……』
およそ五十体程のミニ雪だるまが土方と海を囲んだ辺りで声をかけられる。夢中になって作っていたせいで、土方の存在をつい忘れてしまっていた。
言われて気づいた手の冷たさ。最初、触れた時は雪の冷たさに凍えたが、集中してしまえばそうでもない。ただ、自覚してしまうとそうも言っていられなかった。
『痛い』
「そりゃそうだろうが!いつまでそんな事やってんだ馬鹿!」
ずんずん、と雪だるまがない所を歩いて近づいてくる。しゃがんでいる海の横に同じように土方もしゃがみこみ、冷たくなった手を掴まれた。早く温まるようにと両手で包まれる。
「ガキじゃねぇんだからいつまで触ってんじゃねぇよ」
『悪い。つい夢中になって』
「はぁ……こんな冷たくなるまでやるな」
文句言いながら手を温めてくれる土方。あぁ、本当に面倒見のいい父親みたいなやつだな、と海は一人笑った。
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