第181幕
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「はぁ?慰安旅行?」
雪が降り積もる庭を襖に寄りかかりながら見ていた土方が近藤の言葉に眉を顰める。
「兄さん、見てみて」
『ん?よく出来てるじゃねぇか』
「この前、原田さんに教えてもらったんだ」
部屋の真ん中に炬燵を置き、ぬくぬくと温まっていた海の前に出されるみかん。
まん丸のみかんには2つの長い耳らしきものが皮で作られている。それは可愛らしい兎のように見えた。
『原田がねぇ』
「ね、兄さんもなんか作ってみて!」
『まったく……食べ物で遊ぶなよ』
押し出されたみかんを受け取り、海は渋々と皮をむく。
「松平のおっさんがスキー旅行にでも行って士気あげてこいって」
みかんの皮を剥いている間にも近藤と土方の話は続いておりそちらへと耳を傾ける。
松平からの指示は気晴らしに旅行に行ってこいというもの。いつも気を張っているのだからたまには羽を伸ばしてこいとのお達し。
『旅行行ってる間にテロでも起こされたらたまったもんじゃないけどな』
「海さんは行きたくないんですかィ?スキー旅行」
近藤と土方の話を黙って聞いていた総悟が朔夜が食べようとしていたみかんを横取りしながらこちらを見る。
『そういうわけじゃない。旅行に行って気を休めるのはいい事だ。たまには休暇も必要だからな。だが、真選組がこぞって居なくなったら誰が江戸の守備をするんだって話』
「はぁ……海さんも土方さんも頭が固くて適わねぇや。仕事ばっかしてないでたまには休みやしょうぜ」
「てめぇが言うかそれを」
普段から怠けている総悟に言われてはなんだか癪に障る。海は何も言わずにみかんを剥き続け、その代わりにと土方が青筋を浮かべながら総悟を睨んだ。
「何作ってるの?」
『パンダ』
ぽて、とみかんをテーブルへと乗せる。少し不格好になってしまったが、なんとなくパンダと見えるそれを朔夜は凄い凄いと褒めていた。
『で?行くのか?その慰安旅行とやら』
「行くわけねぇだろうが。俺たちが行ったら誰が江戸を守るんだ」
『土方が行かねぇなら俺も行かねぇわ』
パンダのみかんをそのままに別のみかんへと手を伸ばす。それは普通に皮を剥いて中身を出し、一切れ摘んでは口の中へと放り投げた。
「お、お前は行ってこいよ。いつも仕事してんだ。たまには休め」
『上司置いて出かけるほど疲れてはいない。それに、土方一人残すなんて可哀想だろ』
「なッ……かわ……はァ!?」
『書類誰がやんだよ。帰ってきて溜まり溜まってましたなんてシャレになんねぇだろ』
気を安らげるために行った旅行が己の首を絞める結果になってしまうのなら行かない。それならば旅行の事など忘れて仕事に専念していた方がいいと言った海に土方は何故か肩を落としていた。
「し、仕事の事だけかよ」
『それ以外に何がある』
「なんでもねぇ」
隣でニヤニヤと笑う総悟と朔夜。その意味がわからない海は黙々とみかんを食べ続けていた。
「海、ちょっと食べ過ぎじゃないか?海がみかんになっちまうぞ?」
『……丸々?』
「あっ、いや、そういう意味じゃなくてな?」
「大丈夫ですよ。兄さん、どれだけ食べても太らないから」
「そうじゃなくて、今のは比喩表現であってだな?」
「なんですか?海さんがみかんのようにオレンジ色になっちまうって話ですか?」
「そうそう!そういうこと!」
「いいんじゃねぇか?こいつ普段は隊服着てるからあんま見えやしねぇが、女みてぇに白いじゃねぇか。少しは日に焼けろ」
その言葉にしん、と静まり返る一同。海は気にせずにみかんを食べていたのだが、朔夜と近藤が騒ぎ出したことによりみかんから意識を移した。
「え!?なんでトシ知ってるの!?」
「ちょ、兄さん!?ダメだよ!?ちゃんと一人に絞らないと!!」
『は?なんのことだよ』
「だ、だって……なんで土方さんが……!」
『風呂で見るだろ』
「あっ」
『こいつ毎回言ってくんだよ。色白過ぎるって。仕方ないだろ。年がら年中この隊服着てるんだから。夏でも長袖長ズボンでどうやって焼けっていうんだよ』
これでも腕はそこそこ焼けている方だ。暑さに耐えきれない時に袖を捲っているから。足の方に関してはどうしようもない。捲りようがないのだから、と拗ねたように話す海に朔夜は目を瞬かせ、ホッと安堵していた。
「なんだぁ、土方さんともしてるのかと思った」
『何を?』
「ううん、なんでもない。もし土方さんに何か言われたら言って?僕が追い払うから」
「お前らどういう話してんのォ!?」
"だから兄さんは坂田さんだけね?"と微笑む朔夜に海は小首傾げつつ頷いた。
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