第175幕
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静かに眠るおじさんを見て"あぁ、本当に亡くなってしまったんだな"と漸く理解した。
近藤から話を聞いた時はまだ信じられなくて、受け入れられなかった。だが、こうしておじさんが棺桶の中で目を閉じているのを見ると否が応でも信じざるを得ない。
『お世話に……なりました』
隣で土方が咽び泣いているのを聞きながら、海は俯き、膝の上に乗せた両の手をキツく握りしめていた。
「海?」
涙が畳へと零れる間際、後ろから声をかけられて振り返る。そこには喪服に身を包んだ銀時たち万事屋一行。
涙目になっていた海を見た銀時は辛そうに顔を歪めた。
「世話になったもんな」
『こんな早くに……逝くと思わなくて。俺まだ……』
「そうだな。我慢しないで今日は泣いとけよ」
ぽん、と頭に乗った手が優しく撫でる。我慢していたものが胸の内から溢れ出てきて、海はさめざめと泣いた。
朔夜がそんな海に声をかけようかと狼狽えていたが、銀時が首を横に振ったことで止められる。
「今はそっとしておいてやれ」
「はい」
肩を震わして涙を零す海を銀時たちはそっと見守った。
程なくして葬儀が始まり、海たちは参列者として親族たちの後ろに座った。
「ねぇ、兄さん」
『ん?なんだ?』
「僕、お葬式初めてなんだ。お焼香ってどうやるの?」
『あぁ、こういうのは教えてもらわないとわからないもんな』
葬式のマナーなんて普段やることはない。葬式自体も人生で数回くらいしか経験しないこと。まだ10代前半の朔夜がそんな事を知っている訳もなく、段々と回ってくる順番に焦りの色を見せた。
『義務教育で教えて欲しいよな』
「へ?義務教育?」
『いや、なんでもない』
朔夜に親族の人がやっているのを見ておきなさいと声をかける。うーん?と唸りながらあれやこれやぶつぶつ呟く朔夜に苦笑いを浮かべた。
『ところで土方。お前はなんで俺の手掴んでんだ』
「は、はァ!?掴んでねぇよ!」
隣で朔夜が焼香のやり方を学んでいる中、左隣で大人しく座っていたはずの土方が海の手を強く掴んできた。
『葬式が怖いとかほざくなよ?』
「んな事言うわけねぇだろうが!」
『うるさい。叫ぶな』
カタカタと震えながら何かを指差す土方に海は訝しげな目を向ける。そしてそれは土方だけでなく、通路を挟んだ向こう側の銀時もおじさんの棺桶を指差して怯えていた。
「お、お前には見えねぇのかよ!アレが!」
『は?』
「え!?なんで海くん見えないの!?前は見えてたじゃん!」
『だから何がだよ』
「お、お化け……」
口元をひくりと引き攣らせた銀時がおじさんの方を凝視する。海も棺桶の方を見やったが、幽霊なんてものは見えなかった。
『いないだろ』
「え、まじ?え!?なんで……って、まさか!あの時に使い果たしたのか!?」
『使い果たした?』
「お前、結野アナに神獣借りてただろ。それを召喚すんのに霊感全部使ったんだろ!」
そんなアホな、と思いつつ海は再度、おじさんが眠る棺桶を見つめる。二人は棺桶からおじさんの幽霊が出てきてると喚いているが、海には全くと言っていいほど見えない。
銀時のあの怯え方を見るに本当のことなんだろうが、海にはそれが見えなくなっていた。
幽霊旅館でついてしまったよく分からない力が、結野アナのあの一件で全て失われた。前まで見えていたものがまた見えなくなり、少し寂しいような。
『おじさんは……』
悲しんでいるのか?と銀時と土方に問うと、二人は全力で首を横に振った。
「「ハードボイルドになってこっち見てる!!」」
『……は?』
骨が軋むほど海の手を握り続ける土方に海は痛みに顔を顰める。この二人は何が言いたいんだ。
ガタガタ震えながら棺桶を見る二人。棺桶の方を何度も見たが、海にはやはり見えなかった。
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