第198幕
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「妙なこと考えてませんよね、銀時様」
「妙なことって?」
「いえ……」
夕焼けで染まる町を銀時は眩しそうに目を細めて眺めていた。その後ろでたまがなんとも言えない表情で銀時を見つめている。
海はそんな二人を横目に橋の手すりにもたれながら定春の頭を撫でていた。
吉原での騒動のあと銀時はあてもなくふらりと町を歩いていた。たまが何度か声をかけたのだが、銀時は気のない返事を返すだけで、後ろを歩いていた海やたまに目を向けることもない。たまはその度に海に助けを求めるような視線を送ってては、何もしない海にため息をついた。
『(そんなに構う必要はないだろう)』
子供ではないのだから一々気にする必要はない。海はそう思って声をかけることをしなかった。銀時に関する記憶がないから無関心でいる、というのもある。
記憶が戻ったら自分もたまのように心配するのだろうか。
「海?大丈夫か?」
俯いていた顔を上げると間近に銀時の顔。驚いて目を見開く海に銀時は首を傾げ、更に顔を近づけてきた。
たまと話をしていると思っていたのだが、そのたまがどこにもいない。物思いにふけっている間にたまはどこかへ行ってしまったのか。
橋に残っていたのは銀時と定春だけ。たまが去っていくのにも気づかず、しかも人に心配されるほど考え込んでいたらしい。そばに居る定春も「どうしたの?」という顔で海を見つめている。
「具合悪いのか?今日は歩き回ったから疲れただろ。そろそろホテル戻って休むとしますか」
『そうじゃない。疲れはしたけど、体調が悪いわけではない』
「ならいいけどよ。無理すんなよ?」
こくりと頷けば、銀時は海から離れていく。
「……なに?」
『は?』
「いや……これ」
『これってなにが……は??』
きょとんとした顔で銀時が腕を上げる。それに伴って海の手もゆっくりと上がった。
「どうした?やっぱ身体辛いか?」
『ち、違う!なんで……!』
海の手は銀時の服を強く掴んでいた。本人の意志とは関係なく。
何故そんな事をしたのか全く分からない。戸惑う海に銀時はうーんと唸る。
「なぁ、海。一つ試したいことあんだけどいい?」
『な、なに』
「嫌だったら全力で俺の事蹴飛ばしてくれていいから。ね?」
『人が嫌がることすんのかよ』
「試しにだから。今の海がどう思うかちょっと気になってさ」
「少しだけだから」と銀時は微笑みながら海の背中へと腕をまわす。
『なにして……』
「ねぇ、これヤダ?」
『やだも何も……』
男同士で抱き合って何の意味があるんだ。そういえばこいつはホテルにいた時も抱きしめてきたような。その時はたまに聞かれてはマズイ内容の話だったから仕方なくやっただけだったが、今は意味もなく抱きしめられている。
蹴り飛ばしても構わないと本人は言っていた。ならば遠慮なく蹴り飛ばさせてもらおう。利き足を浮かせて力を込めた時、銀時がぼそりと呟いた。
「抱きしめられて気持ち悪い?」
『……別に、そんなことは……ない』
どこか寂しそうな声色に海は浮かせた足を使うことが出来なくなった。
『(本当に幼なじみなのか?これじゃまるで……)』
恋人同士ではないか。そう考えついたが、まさかそんなはずあるわけない。そう自分に言い聞かした。
「絶対に……戻してやるから」
耳元で囁かれた言葉は熱を持っていて、海にはくすぐったく感じた。自分の記憶のことを言っているのだろう。
別に記憶なんて戻らなくていいと思っていたのに、たまに無くしてしまった記憶がいつ戻ってくるのだろうかと考える時がある。
銀時のことを思い出したら分かるのだろうか。
この胸の痛みが。
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