第194幕
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
降りしきる雨の中、銀時はパンツ一丁でゴミの中へと頭を突っ込んでいた。こんな状態になっても誰も救いの手を差し伸べることは無い。なんせ自分のことを皆忘れているのだから。
これからどうやって生きていけばいいのか。
「クゥン……アオーン」
「うるせぇぞ野良犬。ほっといてくれ。脇役の俺なんざ捨ておいてくれ」
もう自分は主人公(仮)ではないのだ。そんな人物に構う必要なんてない。
それでもなお側で鳴き続けている犬に銀時は痺れを切らして起き上がる。そこに居たのは薄汚い野良犬なんかではなかった。手入れのされたふわふわの毛、犬どころか人よりも大きい身体を持つ動物。
銀時を見た定春はワンッ!と鳴いて嬉しそうにしっぽを振っていた。
「定……春……」
ゆっくりと歩み寄ると、定春は銀時に顔を擦り寄せる。雨のせいでしっとりとした毛に顔を濡らされ、これは現実なのだと悟った。
自分のことを覚えているのかと聞いた瞬間、銀時の頭は定春の口の中へと消える。
定春と銀時のいつものやり取り。がぶがぶ噛まれて頭から血を流し、定春にやめろと怒ればまた噛まれる。一年前ならすぐに怒鳴りつけていたのだが、今の銀時には泣くほど懐かしいものだった。
「見つけた。この世界にもまだ金色に染まってない人が二人と一匹と……一機」
定春の口の中から頭を抜いて声の方へと目を向ける。銀時の木刀と服を持ったたまが傘を差して立っていた。
「探しましたよ、銀時様」
「た……たま……お前ら……なんで」
「ご安心を。たとえ世界中が銀時様を忘れても私のデータから貴方が消えることはありません。寝る時はちゃんとリセットを押しながら電源を切ってますから。銀時様もそうですよね」
寝る時にリセット?電源を切る?それはたまがからくりだからだろう。銀時は生身の人間だ。記憶のリセットなんて出来ないし、電源を押すことも出来ない。それに生身の人間にとって電源と言ったら心臓になるではないか。電源切ったら死ぬって。
というツッコミなんてかましてる余裕もなく、銀時はただ呆けた顔でたまの言葉を聞いていた。
「それは確かに金より輝きに欠けていたかもしれない。たまにしか光ることの無い鈍い光だったかもしれない。いつもいがみ合っていた、いつも喧嘩ばかりしていた、天パだった、ぐうたらだった、セクハラ大王だった、家賃も滞納していた、給料も延滞していた。でも、それでも金メッキで固められた偽りの光なんかより、怒る時は心から怒っていた。笑う時は心から笑っていた。あなたがいた銀色のほうがずっときれいだった」
思い返されるのは今までの思い出。ここまでの記憶が走馬灯のように銀時の頭の中を駆け巡る。辛かったことも、悲しかったこともあったが、それと同じように楽しかったことも嬉しかったこともあった。くだらない毎日だと思っていた日々が今ではかけがえのないもの毎日で輝いて見える。
「あの光、忘れてなんかいませんよね?偽りの光に惑わされてたりなんかしていませんよね?だったらもう一度立ち上がって、この剣を握ってください。金色に塗り替えられたこの世界をもう一度塗り替えるんです」
たまはモップに黒のインクを染み込ませ、坂田金時の宣伝ポスターにバツ印を描く。その間にも銀時に問いかける。
自分の魂は何色か、と。
.