第194幕
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「おやじ……記憶飛ぶぐらいの……もう一本」
結局、銀時は酒に頼るしかなかった。こんな辛いなら酒を飲んで酔っ払って何もかも忘れてしまいたい。そう思って居酒屋の暖簾をくぐった。
「はぁ、お客さん。今日はもうそのへんにしといた方が……」
銀時の周りには何本も徳利が並んでいる。それを見た店主は飲み過ぎだと止めるが、銀時はそれでも酒をせがんだ。
「金の心配ならねぇよ。どうせあんたもツケごと俺のことなんぞ忘れるさ」
「何言ってんだい」
店主の呆れた声と、誰かが隣に座る音。テーブルに突っ伏した状態では隣に誰が座ったのかはわからない。確認する必要も無い。どうせ皆、自分のことを忘れてしまうのだから。
「おやじ、熱燗。この兄ちゃんにも」
「ああ、旦那。こりゃどうも」
「男には飲まなきゃやってられねぇ時ってのがあるもんだ。なあ、兄ちゃん。何かあったのか?」
「何もねぇよ……。何もかもなくなっちまったのさ、本当に……何もかも」
思い出されるのは神楽の目。去り際に見た神楽の目は完全に銀時のことを敵視していた。
二度と町に近づくなと言って新八達は銀時に背を向けた。海にさえ邪魔だと言われ、銀時の心はもう壊れかけている。
「馬にでも負けたか?」
「ああ、そんなところだ。人生を賭けた大博打、たった一夜にしてすべてパーだ」
「ゴール手前、後ろから来た金馬に全部かっさられちまったってのか」
やたらと話を聞いてくれる男。しかも男の言葉は銀時の今の状況にかっちりと当てはまっている。一体誰が隣に座っているのかと顔を上げると、そこには銀時がこうなった原因の坂田金時が座っていた。
「て……てめぇは!」
「落ち着けよ、兄弟。こうして仲直りの杯を交わしに来たんだ。まっ、座って飲めよ」
驚いて立ち上がった銀時に坂田金時は静かな声で諭す。そんな彼に銀時は声を荒らげて反抗するも、金時によってねじ伏せられた。
「飲めってのが聞こえねぇのか」
銀時と金時のやり取りに怯えた客たちは慌てて店から飛び出し、残ったのは銀時と金時のみ。
「て……てめぇ、何者だ!新八たちに何しやがった!」
金時が座っていた椅子を蹴りあげ、銀時は吠える。
「何もしちゃいねぇよ。すべてはあの通りさ」
「ざけんな!そんなわけねぇ!今までずっと俺がやってきた事だ!」
過去の話はすべて銀時が行ってきたこと。第1幕から第192幕までの記憶はすべてあり、どこの幕にも金時が現れたことなど一度もない。
「……と証明できるヤツがどこにいる?言い張ってるのはあんただけだ。他の連中は誰もあんたのことすら覚えていない。こう思っているんだろう?俺がみんなに幻でも見せてんじゃないかって。だが、こうは考えないのかい?おかしいのは自分自身だって──」
そこからはもう覚えていない。金時が何か言っていた気がするが、すべて受け入れられるようなものではなかった。
全部自分の妄想だったのではないかと言われた銀時は逃げるようにして居酒屋を出た。ふらふらと行くあてもなく歩き出す。
この世界で不要だったのは自分の方だった。邪魔だったのは金時ではなく銀時の方。
その時、海に邪魔だと言われたのを思い出し、銀時は泣きそうになった。
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