第175幕
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『え?定食屋のおじさんが?』
「あぁ、亡くなったそうだ」
屯所で書類整理をしていた昼頃。海の部屋に来たのは目元を潤ませた近藤さんだった。
かぶき町で定食屋を営んでいたおじさんが亡くなった。突然の話に海は持っていた筆を手から書類の上へと落とした。筆から垂れていく墨をそのままに呆然と。
『それは……寂しくなるな』
「だな。今日の夜、葬式を執り行うそうだ。準備しておいてくれ」
『わかった』
頷く海に近藤も一つ頷いて海の部屋から去っていった。近藤が居なくなった後も海は近藤が座っていた場所をじっと見つめる。
定食屋のおじさんとは長い付き合いだった。
真選組としてここかぶき町に来た時からの付き合い。仕事で上手くいかなかった時、毎回と言っていいほど海の事を慰めてくれていた。おおらかな性格で、常に笑顔の絶えない人。落ち込んでいる人を元気づけようと馬鹿な話もしてくれたし、また明日頑張れるようにと励ましてもくれた。
『惜しい人を亡くしたな』
受けた恩の分をまだ返していないのに。まだおじさんとは話したいことが沢山あったのに。
仕事が忙しくて暫く顔を出せていなかった事が心残りだった。
それから夜まで書類と向き合ったが、いつものように捌ききることは出来なかった。
⋆ ・⋆ ・⋆ ・⋆
「あら、海くん……」
夜、海は近藤たちと共に葬式へと来ていた。
海たちを迎えてくれたのはおじさんの奥さん。少しばかり嬉しそうな表情をしていたが、その笑みには疲労が垣間見える。
「この度はご愁傷さまです」
深々と頭を下げる近藤にならって土方と総悟、海と朔夜も頭を下げた。
「来てくれて嬉しいわ。きっとあの人も喜んでいると思うの」
「親父さんには大分お世話になりましたので」
そう言った近藤の目にはまた涙が溢れた。零さないようにと手で拭い、無理矢理笑みを浮かべていた。
「兄さん……」
『ちゃんとお別れしてこい』
「うん」
朔夜も近藤と同じように目に涙を溜めて海の隊服をキュッと掴んでいた。
定食屋に朔夜を連れていったことがある。見回りの時の休憩として何度も。
おじさんに懐いていた朔夜からしたらとても悲しいことだろう。
俯いている朔夜の頭を撫で、共におじさんが眠る棺桶の元へと向かった。
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