忘れた頃にやって来る
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翌日の早朝。隊士たちが来る前に食事を済ませてしまおうと食堂に来ていた。
ガランとした食堂にぽつんと座る。
「ここに居たのか」
『土方か』
「部屋に居ねぇから探した」
『他の奴らが来る前に済ませようと思ってな』
「その方が良いだろうな。その格好じゃまた文句言われんだろ」
『買ってきたのお前だけどな』
昨晩、総悟にキャバ嬢の服と言われたことはまだ根に持っている。普通の着物を買ってきてくれればいいのに、なんでこんな派手めな柄を選んだのか。
「仕方ねぇだろ。その……お前に似合ってると思ったからそれを選んだだけであって」
ごにょごにょと口ごもる土方から視線を逸らし、海は台所の方へと目を向ける。こんな朝早くなのに食堂のおばちゃんは海の食事を作ってくれた。
声をかけたときに当然驚かれたが。
『腹減ったな』
「お前の頭はそれしかねぇのか」
『昨日の夜から何も食べてないんだよ』
女になってしまった事に驚いて食事をとるのを忘れていた。そのせいで今はとてもお腹がすいている。いつもより少し多めに用意してもらっているが、それでも足りなさそうな気がする。
「お前いつもの量を食うつもりか?」
『そうだけど』
「食いきれんのかよ」
『大丈夫だろ。性別が変わったとはいえ食う量までは変わらないんじゃねぇか?』
それにこれだけお腹が空いているのだから残すことは無いはず。そう思って頼んだのだが、土方が心配していたこととは違う問題が出た。
用意出来たと呼ばれて皿を取りに行ったのだが、いつも持っているはずのお盆が持てない。重くて持ち上がらないのだ。
「何やってんだ」
『いや、なんか……持てなくて』
「は?何言ってんだ」
『知らねぇよ……いつも持てるのに持てないんだよ』
もう一度盆を持とうと思ったが、重くて持ち上がらない。
「貸せ。持っていってやるから」
盆を前にして困り果てていると横からサッと取られ、土方は先程まで海が座っていた席へと運んでくれた。
「女になったから腕力が落ちたんじゃねぇか?」
『不便だな。これじゃ刀も扱えるかどうか』
「危ねぇから暫くは屯所から出るな」
『そうする』
隊士達が来る前に食事を終わらせてしまおうと箸を持つ。いつものように食べ進めていたのだが、土方が自分の朝食を食べ終わる前に海の手は止まってしまった。
「どうした?」
『やばい。変わったのは体力だけじゃねぇかも……』
「は……おま、まさか!」
海の前にはまだズラリと皿があり、どれも手付かず。いつもであれば食べ切れる量なのに、今日は丼のご飯を食べ切るので精一杯。
『これ……どうしよう』
「この量は俺も食いきれねぇよ……」
暫しの沈黙のあと、土方は食堂のおばさんに料理を箱に詰めてほしいとお願いした。突然の申し出におばさんは海が体調を崩しているのではないかと心配したが、事情を話したら笑われた。
「そりゃ女の子はそんなに食べないからねぇ!」
『すみません……』
「いいよいいよ!早く元に戻るといいわね」
花見以来のお重の出番。三箱ともぎっしりに詰められて渡されるが、それが海の元に来ることは無かった。
「どうせ持てないだろ。部屋まで持っていってやるよ」
『悪い。そうしてもらえると助かる』
「気にすんな。その……女に重たいもん持たせられないだろ」
『順応するの早くないか?』
昨日性別が変わったばかりだというのに土方はもう適応している気がする。一々言わくても済むのだが、何となくモヤッとした。
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