狐と猫 5
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「おい」
身体を強く揺さぶられて目を開ける。ここは天国なのかと思って周りを見てみたが、目に映ったのは変わらぬ木々。
「いつまで寝コケてるつもりだ」
『だれ?』
「てめえが勝手に入ってきたんだろうが」
海を抱えているのは見知らぬ男。銀時と違って頭に耳は生えていないが、彼の耳のところには不思議なものが生えていた。
『おにいちゃんだれ?』
「聞く前に名乗れ」
どさっと地面に落とされて腰を強くうち付ける。痛みで視界がぐにゃりと歪んだ。
『うっ……きつねぇ……』
「狐だ?」
『きつねは……きつねはどこぉぉ』
痛い痛いと泣きわめく海に男はみるみると嫌な顔をし始める。
海が泣くといつも銀時はすっ飛んでくる。痛い思いをしていれば優しく抱きしめてくれるのだ。それなのに銀時はいつまで待っても来ない。
『ぐすっ……きつ……きつねぇぇ』
「うるせぇ。びーびー泣いてんじゃねぇ」
『ううっ……だっておにいちゃんこわいんだもんんんんん』
外の暗さと相まって男の顔は恐ろしく見えた。銀時と十四郎以外の者に会うのも初めてのことだし、こんなに乱暴に扱われたことも酷く悲しい。
止めようと思っても涙はハラハラとこぼれ落ち、益々男の機嫌を急降下させていく。
「こんなクソガキが猫又なんて聞いた事もねぇよ」
男は海の側に膝をつくと、尻から伸びている二本の尻尾を掴んだ。
『いたいっ!』
「よくそんなんでこれまで生きてこれたな」
『きつね!とうしろう!』
この男の元から逃げなければ。でないと殺されてしまう。
「九尾も烏天狗もここにはいねぇ。諦めな」
逃げようとしても尻尾を引っ張られて引き戻される。手を足を土まみれにしながらも逃げようとしたが、海は男の元から逃げることは出来なかった。
『きつ……ね……』
「静かにしろ」
疲れ果ててぐったりとした海を男は抱えあげる。そしてまた水の中へと潜った。
殺される!と身構えたが、いつまでたっても痛いのも苦しいのもやってこない。それどころかさっき感じた息苦しさも感じなかった。
『あれ?』
「めんどくせぇのがわらわらと出てきやがって」
水の中に居るはずなのに息ができる。何か膜のようなものに包まれているのか身体も濡れていなかった。
『なにこれ』
「てめえはこの中では息が出来ねえだろうが」
『うん。だってさかなじゃないもん』
「魚と一緒にすんじゃねぇ」
水中で自由に動き回れるのは魚じゃないのかと問えば、男は黙って海の頭を叩いた。
叩かれた頭を押さえながら周りを見渡す。先程まで海が取ろうとしていた魚が気持ちよさそうに泳いでいる。大きい魚に寄り添って小さい魚も泳いでおり、まるで銀時と自分のようだと笑った。
『おにいちゃんさかななの?』
「あれと一緒にするな」
『じゃあなに?にんぎょ?』
「…………は?」
『とうしろうがいってた。このあいだうみににんぎょがいたって』
人魚は水の中で生きている。上半身は人間のような見た目で、下半身は足ではなくヒレ。今目の前にいる男と同じ風貌だ。人魚を直接見た訳では無いけれど、十四郎がそう言っていたからきっとそうなのだろう。
『なんでみずのなかにいるの?そとにでないの?』
「おい、勘違いしてんじゃねぇ。俺は人魚なんて下等なもんと──」
『ねぇねぇ!にんぎょもさかなたべるの!?』
男の言葉を遮って海は聞きたいことをズバズバと突きつける。あれは?これは?と聞きまくる海に男は諦めた顔でため息をついた。
「もう黙れ」
ゴンッと頭を殴られてプツンと意識が途切れる。力を失った海はそのまま男の胸へと倒れた。
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