狐と猫 5
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「海、こんなバカに付き合ってないでそろそろ帰ろうか」
『そうだな。魚と妖怪の区別もつけられないアホに構ってる暇は無い』
「お前らシバくぞ!!」
蛟と魚を同義にするとはなんて馬鹿な烏天狗なんだ。
好き勝手言われていた蛟ももはや何も言う気になれないのかこちらを眺めているだけ。むしろもう池の中に戻りたいのではないだろうか。
ギャーギャー言い合っている銀時と十四郎を他所にこっそりと蛟のところへと寄る。
『騒がしくして悪かったな』
「よくあんなヤツらとつるんでられるな」
『二人とも俺の親みたいなもんだから』
「親ねぇ。そんなもんじゃ済まねぇと思うが」
『親だろ。一応育ててもらったし』
「なら俺ァてめぇの保護者になんのか」
『保護者?なんで?』
「覚えてないのか」
『何を……?』
そう言えば先程もそんなようなことを言われた。いくら思い出そうとしても蛟の姿を思い出すことは出来ない。
「物覚えの悪い猫だな」
『悪かったな。成長した時に以前の記憶が戻ったから整理しきれないんだよ』
「一度死んでるのかてめぇは」
『……まあ』
その記憶はあまり思い出しくない。天井の板に押しつぶされ、身動きが取れない状態で焼き死ぬあの感覚はいつまでも海を苛んでいる。忘れたくても忘れられないとても強烈な記憶。
「それなら思い出させてやる」
『は?』
ぬるっとしたものに腕を掴まれ、海はまた池の中へと飛び込んだ。
海の腕を掴みながら蛟は水底へと沈む。
「ガキのお前が池に落ちて溺れてたのはいつだったか」
『な……に……』
息が苦しい。蛟は水の中でも呼吸が出来るだろうけど、海は魚では無いからそんなことは出来ない。段々と苦しくなって頭がぼーっとして来たとき、この経験は以前にもしたのではないかと思った。
この息苦しさを知っている。沈んでいく恐怖と真っ暗になっていく視界。そして水底から現れた何者か。
『おれ……』
「思い出したか?クソガキ」
蛟が生み出した泡の中へと入れられると呼吸が楽になり、咳き込みながら必死に酸素を肺へと送り込む。その間、蛟は満足そうな顔で海のことを見ていた。
『あんた……あの時の!』
「テメェが"また来る"って言ったんだろうが。何忘れてんだ」
『悪い……その後に記憶が戻ったから……そうか、お前あの時の"人魚"だったのか!』
「……おい、そんなモンと一緒にすんじゃねぇ。このまま落とすぞ」
蛟のことを完全に思い出し、海は泡の中で喜ぶ。そんな海に蛟も満更でもなさそうな顔で笑った。
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