狐と猫4
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しっぽを上げては下ろし、上げては下ろしをさっきから何度も繰り返している。その度に海は目を輝かせた。
「これそんなにいいの?」
『こんなにふわふわなのさわったことない』
目をキラキラさせながら海は銀時のしっぽを抱きしめる。毛の中に顔を埋めて喜んでいる姿は幸せそうだ。そんな顔を見てしまえば好きにさせたくなる。
「しっぽで遊んでんのはいいけど、海お腹空かないの?」
『おなか?』
しっぽに抱きついたままで、こてっと首を傾げる。抱き潰したくなる衝動に駆られたが、海の頭を撫でるという行動で抑えた。
「飯食わないのって」
『ごはん』
遊ぶのに夢中になっていたのか、ご飯と呟いた瞬間、海のお腹は空腹を訴えた。ぐきゅるるるという可愛らしい音が鳴り、海は咄嗟にお腹を両手で押える。
「お腹すいたのな。ちょっと待ってろ」
『そ、そんなにすいてない!』
「いいから待ってろって」
飯を取りに行こうとする銀時のしっぽにしがみついて首を横に振るが、その間も海のお腹はぎゅるぎゅる鳴いていた。
海の飯の好みは把握している。というか、叩き込まれた。好物や苦手なもの、そして与える時に気をつけなくてはいけないことなど。
こうなることを霞は予見していたのか、海が死んだあとすぐ銀時に教えこんだ。海が生まれ変わったときに霞がそばにいなくても困らないようにと。
『きつね!』
「俺、銀時っていうの」
『ぎんとき?』
「そ。呼ぶならそっちで呼んで欲しいなーって」
『きつね』
「うん。狐なんだけどね?」
魚を採っている間も海は銀時のしっぽから離れる気はないのか、ずっと抱きついたまま。
以前の記憶はあるみたいだが言動は子供だ。親に引っ付いて甘えている子供のように銀時の傍を片時も離れようとしない。
「(烏天狗の方に行くと思ってたんだけどな)」
銀時より烏天狗との方が付き合いが長いし、海のことを色々知っている。だからそっちに行ってしまうと思っていたのだが、海は何故か銀時を選んだ。狐、狐と呼ぶ割には銀時のことを覚えていない。それなのに海は銀時から離れようとしなかった。
「……えっ、もしかして刷り込み?」
『すりこみ?』
「ん?あ、こっちの話」
『こっちのはなし!』
海が生まれ変わったとき一番最初に目にしたのは銀時だ。動物は生まれた直後に目の前にあった、動いて声を出すものを親だと覚え込んでしまうことがある。そして海の前にいたのは銀時だけ。
「ずっと待ってて良かったわ」
もしあそこに自分ではなく烏天狗いたならば。海は烏天狗のことを親だと認識してついて行く。危ないからと言って引き離そうとすれば、海は銀時を親から引き離した悪いやつとして恨む。
海から嫌われるのは何よりも怖い。
『きつね、ごはん』
「はいはい。お前は焼かないと食べれないでしょうが」
日課にしてよかった。でなければこれまでの三十年が無駄になってしまうところだった。
取った魚を焚き火で焼く。忙しなく動き回る海を抱き寄せ、身を解した魚を海の口元へと運んだ。
「(あっ、でも俺親になるの?なるなら違うのがいいんだけど)」
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