狐と猫 3
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「大丈夫か?」
『とりあえず……は、』
妖力を注がれた直後はまったく動けない。元々、海は妖怪でありながら妖力をほとんど持たない体質だ。そのため、強い妖力を渡されると身体が驚いてしまう。拒否反応を起こすくせに妖力が無いと生きていけない不便な身体を持ったことに何度恨んだことか。
海は十四郎のように自由に姿を変えられる力もなければ、怪我を瞬時に治せるほどの治癒力もない。人間の姿から猫の姿へと戻ってしまうと、一人で人間の姿に戻ることは困難だ。
だから十四郎から妖力を度々もらっていたのだが、この村に来てからは力の補充をしていなかった。人間の姿を保つだけなら妖力はそんなに減ることは無い。変に怪我とかをしなければ猫に戻ることは無かったから。
でも、今回は怪我をしたことによってごっそりと力を失った。少ない妖力で傷口を塞ごうとしたせいで身体への負担が酷く、立ち上がることも出来ないほどに弱って。
十四郎が見に来てくれなければ今頃、猫の姿になっていたかもしれない。
『十四郎』
「なんだ」
『……ありがとう』
「最初から素直にしてくれれば楽だったんだが?」
『悪い』
「次からは気をつけろ」
『わかった』
素直に頷いた海に十四郎は満足気な笑みを浮かべたが瞬時に真顔へと変えた。
「それと、明日にはこの村を出ろ」
『明日?』
あまりにも突然すぎる。来週くらいには村を出ると十四郎に言ってあるのに。
「この村はもう無理だ」
『なんで……』
「最近、ここいら一帯で雨が降ってないのは知ってるだろ」
そういえば最近は雨を見ることが無くなった。曇ることはあっても雨がこの地に降り注ぐことはない。それと海に一体何の関係があるというのだ。
「人間たちは雨乞いをするために儀式をすることがある。その生贄にお前が選ばれてる」
『は……?生贄?』
「人身御供ってやつだ。お前を供物にして神に雨を降らせてもらおうとしてるんだろう」
『そんなこと出来るわけないだろ』
「ああ。俺たちは知ってるからな。だが、人間は違う。あいつらは神を信じてる」
神様なんて存在しない。どれだけ願ったって助けなんか来やしないのだ。
「俺たち妖怪が言うのもなんだけどな」
『人間はどこまで愚かなんだ』
怒りを通り越して呆れてしまう。姿が見えないものに縋るなんて無駄なことなのに。神様なんて人が勝手に作り出した存在のはず。
「何かに縋らなければ生きていけない。それが目に見えないモノであれば、自分の都合の良い存在として崇めるだろう」
『バカバカしい』
そのせいで誰かを犠牲にしても構わないというのか。
怒りに任せて海は手にしていたものを強く握りしめる。
『うおっ』
途端に布団の中で何かが飛び跳ね、海の腹部へドスッと蹴る。何事かと思って中を覗くと、狐が海の手をガリガリと引っ掻いているのが見えた。
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