狐と猫 2
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老婆を寺の近くに埋めてから数年、海は村に戻ることなくそこに残っていた。
こんもりと盛り上がっている土の横に大きな石が置かれ、その石に寄り添うようにして一日を過ごしている。
「お前もそろそろか」
『死んだらここに埋めて欲しい』
「なら動けるうちに自分の墓穴を作っておくことだな」
残りの人生が短いことはここ数日の間で悟っていた。段々と動かなくなってきた身体に最初は恐ろしく思っていたが、これであの人のところに行けるのだと思ったらそれはそれで悪くないと感じた。
『そういえばお前って結局何者なんだ?この人はお前のことを神って呼んでたけど』
「俺は神じゃない。烏天狗だ」
『烏天狗?』
「ああ。この山に昔からいる妖怪だ」
老婆は願う先を間違えた。神様だと思った相手は妖怪。人を助けるどころか、人に害をもたらす相手だったなんて知ったらあの人はなんて思うのだろうか。
『きっと笑うんだろうな。間違えちゃったって』
うっかりの多い人だった。だから今回も笑って誤魔化すんだ。
『魚……食べたいなぁ』
今度は骨がついてるままでいいから食べたい。今ならちゃんと噛み砕けるから。
「もう寝ろ。お前も疲れただろう」
さっきから眠くて仕方ない。うとうとし始めた海の頭を烏天狗は優しく撫でる。
その手は老婆が撫でてくれていたのと同じもの。
「おやすみ、海」
おやすみなさい、と言いたかったけれど、言葉にする前に海の意識はぷっつりと切れた。
⋆ ・⋆ ・⋆ ・⋆
「珍しいこともあるもんだな」
死んだ猫を埋めようと穴を作っていた時、ある物が目に入った。
それは通常ではあるはずのないもの。烏天狗として何十年、何百年と生きてきたが初めて見るものだった。
「猫又か」
人間の墓に寄り添って死んだはずの黒猫は猫又になっていた。
先程まで一本しかなかったしっぽが二本になり、普通の黒猫よりも少し大きくなっている。寿命を迎えた猫が化けるなんて聞いたこともない。
「本来なら生きてる間になるものだが……こいつは特別か」
本人は死んだと思っているはずだ。それが妖怪になって生きながらえたと知ったら。
それともこれはあの老婆の願いなのか。あの女は死の間際、黒猫にこれから先幸せになって欲しいと願った。その結果がこの姿なのか。
「穴は必要なさそうだな」
これからこの黒猫は妖怪として生きていく。その人生はとてつもなく長い。
たった一匹でその人生を歩むのは辛かろう。
「無理矢理取り付けられた約束だ。俺の気が済んだらいつでも破棄するからな」
それまではこの黒猫のそばにいる。そう決めて、十四郎は彼を抱き上げた。
「これからは俺が一緒にいてやる。光栄に思えよ、海」
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