狐と猫 2
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「あ……あぁ……神様……」
か細え声で老婆は呟く。
「どうか……どうかこの子だけでも……助けてくれませんか」
苦しげな顔で老婆は目の前に立つ男へと目を向ける。
「私はもう……この子の側にいることはできません。どうか、この子を……」
助けてあげて欲しい。そう言って老婆は男に向けて頭を下げた。
彼女にこの男が見えているとは思えない。いつもお菓子を寺に置いていく時、この男は彼女を見送っていたけど、当の本人は気づいていなかったのだから。
「断る。俺にこいつの面倒を見る義理はない」
「そこをどうか……」
「自分で面倒が見れなくなったからと言って他人に任せるのか。それならば共に連れていけばいいだろう」
「それはなりません!この子にはまだ生きていて欲しいんです。これからもっと幸せにならなければ──」
そこで言葉が途切れる。ごほごほと何度か咳をした老婆は口と手を真っ赤に染めていた。
「お願いします。どうか……どうか……」
頭を地面に擦り付けて男に頼み込む。そんな姿を海が見ていられる訳もなく、彼女の頭に自分の頭をグリグリと押し付けて頭を上げさせようとした。
『こんな奴に頼む必要は無い!!いいよ、俺一緒に逝くから。だから!』
「やめろ」
男に止められても海はずっと頭をぶつけ続けた。
海たちが来た時はまだ空は明るかった。だが、今はもう暗くなって月が出ている。
それでも老婆は頭を上げることをしなかった。
『なんで?なんで一緒に連れて行ってくれなかったの?俺はずっと一緒にいるって言ったじゃんか』
冷たくなった身体を温めようと身を擦り寄せる。
『こんな所にいたら風邪ひくよ。また寝込んだら大変だろ』
だから帰ろう?
「……この人間を埋めに行く。ついてこい」
男は老婆を軽々と担ぎあげて山を登る。
ついた先はいつもの寺だった。
『その人をどうするつもりだ!』
「お前は死んだ人間がどうなるのか知らないのか?」
『知らない……』
「人は死ぬと腐る。異臭を放ち、魑魅魍魎を呼び寄せる。その血肉を貪って新たな妖怪が生まれるんだよ。お前はこのばあさんをそいつらの"餌"にするつもりか?」
『餌?どうすれば餌にならないんだ?』
「土の中に埋めるしかない。そうすればアイツらからは隠せる」
『土の中?』
「埋めてやるんだ」
そう言って男は地面に穴を作った。老婆を穴に入れて土をかける。段々と顔が見えなくなっていくのを海はじっと見つめ続けた。
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