狐と猫 2
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「ちょっと一休みしようか」
寺までもう少しのところで老婆は足を止めた。酷く疲れた様子でその場に座り込む。
荒い息を繰り返す彼女に何度も声をかけたが、返事が帰ってくることは無かった。
「もうその人間は無理だ」
背後から掛けられた声にビクッと身体を震わせ、海は老婆を庇うように身を盾にする。
「分かっていたはずだ。もう次はここに来られないと」
『お前は……』
「なんで止めなかったんだ」
海の後ろに立っていたのは寺でいつも見ていた男。
『お前ならこの人を助けられるんじゃないのか?』
「無理だ。人間の命は限りがある。それを覆すことは神でも出来ねぇよ」
頼みの綱だった男にバッサリと切られ、絶望で目の前が真っ白になった。
胸を押さえて苦しそうに息を吐いている彼女は今にも死にそうだ。
『どうすれば……どうすればこの人を助けられるんだ』
「寿命だ。諦めろ」
そんなことを言われて認められるわけが無い。
「おい……」
座り込んでいる老婆の着物を咥え、来た道を引き返すように引っ張る。村に戻れば医者がいるんだ。あの人間なら老婆を助けてくれるかもしれない。
「お前の力ではどうにもならねぇ。いい加減諦めろ」
『ふざけんな!この人は俺の事を助けてくれたんだ!今度は俺がこの人を助けなきゃ……!』
だから動いて欲しいと老婆に鳴き続けたが、彼女はその場から立ち上がることは無かった。
『ダメだ……まだ、まだダメだよ。まだ俺何も返してないよ』
死にかけていた海を助けてくれた恩も、ここまで育ててくれた恩も返してない。まだこの人には生きていてもらわなければならない。
『やだ……俺ずっと一緒にいたいよ……』
猫の言葉が人間に届くことはない。それでも海は喉が張り裂けるほど何度も鳴いた。きっと彼女に届いてくれると信じて。
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