狐と猫 2
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「あらあら。今日も元気ねぇ」
『にゃうう』
家の前にいた鳩たちを追い回している海の元へと老婆がやってきた。追いかけていた鳩に背を向けて老婆の元へと駆け寄ると、彼女は嬉しそうに笑った。
死を覚悟したあの日、海は老婆に拾われた。
死にかけだった自分を付きっきりで看病し、怪我が治った後も海を家族として側に置いて何かと世話をしてくれた人。
彼女の家族は皆、遠くへ行ってしまったらしい。子供たちが家を出ていった後、旦那も病気で死んでしまって、彼女は一人でこの寂れた家に住んでいる。
「今日はお参りに行きますからね」
月に一度、彼女はお参りだといって近くの山にある寺へと向かう。
その寺は今にも崩れ落ちそうな程ボロボロで、人の気配もない。彼女に飼われてから数年、何度も寺に行ったことがあるが、老婆以外の人を寺で見た事は無かった。
ただ、人とも猫ともつかない者がいつも老婆のことを見下ろしていたが。
「さ、ご飯お食べ」
出されたのは細かく切られた魚。食べやすくなっているそれは一本も骨が入っていない。いつだったか、海が魚を食べた時に骨が喉に刺さって吐いた。
それから彼女は魚を出す時は骨に気をつけている。海が吐いてからもう何年も経っているというのに。
「今日はお饅頭にしましょうかねぇ。前はお団子だったから」
楽しそうに饅頭を紙に包む老婆を海はじっと見つめる。ここから寺までは遠く、しかも山を登るから道のりも険しい。
『(あと何回、この人は寺に行けるんだろうか)』
前回寺に行った時、彼女は数日寝たきりになっていた。
もう限界が来ている。認めたくない事実だが、それはゆっくりと、でも着実に彼女に迫っていた。
『(あいつに頼めば何とかしてくれるのか?いつもあいつに饅頭を持っていってるんだから)』
寺にいるあの男ならば老婆を助けてくれるかもしれない。今日、寺に行った時に話しかけてみよう。
饅頭を手にして家を出る老婆の後をトコトコついて行きながら、海は男になんて切り出そうかと考えていた。
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