狐と猫
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『霞、もういい加減にしろ』
ダラダラと寝転がる霞に再度声をかける。
山に行くといってからもう何十分と経っていた。ゴロゴロと動き回るだけで歩きだそうとしない霞に段々と苛立ちが募っていく。
『行かないなら置いていくぞ』
霞を待っている時間が惜しい。日が暮れたら山菜を探すのは難しくなってしまう。
ついてこないのであれば家で留守番してもらうしかない。霞に背を向けて海は外へと出た。
海が使っているこの家は村外れにぽつんと立っている。こんなところまでわざわざ村人が来ることはほぼ無い。村の中心部から離れているという理由もあるが、一番は余所者と不吉を呼ぶ黒猫が住んでいるからだ。彼らはなるべく海たちと関わることのないように生活している。
それを察して海と霞も村に行かないようにしているのだが、中には好き好んでこの家に来る人間もいるのだ。
『(またか)』
この家に住むようになって数年、度々目にする子供たち。彼らは海がこの村に来た時に見た少年たちだ。霞に向けて石を投げていた彼らは、ついに人にも石を投げるようになった。
「この村から出ていけ!余所者と黒猫は不幸をもたらすんだ!」
「お前らのせいで母ちゃんが病気になった!!お前らが悪いんだ!!」
そう言って彼らは拳大ほどの石を海に向けて投げつける。
『病気になっているのであれば側にいてやればいいんじゃないか?こんなところで石を投げてる暇があるなら』
「うるさい!!黙れッ」
持ってきた石を海に向けて何度も投げるが、それは一度として当たったことは無い。それが彼らのプライドを傷つけて更にムキにさせている事は分かっている。
一度くらいぶつけられて血を流せば彼らは手を止めてくれるのかと期待したこともあったが、霞の件を思い出してそれは無いなと諦めた。
彼らはそんなに賢い子供では無い。
「シャーッ!!!」
子供の声を聞いた霞が慌てた様子で家から飛び出してきては、海と子供らの間に入って威嚇する。黒猫が出てきたことにより彼らは怯えた顔をし、手にしていた石を地面に落とした。
「く、黒猫だ!!」
「行こうぜ!!不吉が伝染っちまう!」
しっぽを巻いて逃げていく少年らを海は呆れた顔で眺める。そんなに怖がるのであれば最初からここに来なければいいのに。
『霞、出てこなくても良かったんだぞ?お前、先週石投げられたばかりだろ』
逃げていった彼らに背を向けて霞はおぼつかない足で海の元へと擦り寄る。
先週、海がいない間に霞はあの子らに石を投げられていた。海が家に戻ってきたとき霞はぐったりと家の前に倒れていて、それは霞と初めて会った時と似ていた。
『まだ上手く動かせないのか』
傷口は塞がっているのだが、まだ上手く足を動かすことが出来ないらしい。
『ほら、乗れよ』
登りやすいようにしゃがんでやれば、霞は海の腕を伝って肩へと登る。
抱っこの方が楽なはずなのに霞はいつも肩に乗ることを選ぶ。怪我をしているときくらい楽な体勢をすればいいのに。そう思いながら海は山へと歩いていった。
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