狐と猫
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道端に転がっている黒猫を海は哀れに思いながらも手は出さなかった。それがあの猫の運命なのだと思って。
もし、黒猫が息絶えてしまったら。その時はどこかに埋めてやろう。人目のつかない場所に。
猫から目を離し、海は自分が住む場所を探そうと歩き出す。
村人にどこか空いている家はないかと聞いていると騒がしい子供の声が聞こえ、海は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。昔から子供の声は苦手なのだ。
「おい!死んだのか?」
「まだ生きてるよ。あんだけ石投げたのに!」
「猫ってしぶといんだな!」
ゲラゲラと下品な笑い方をする子供ら。そしてその子供らを眺める大人たち。
石を投げられても避けることも出来ず、ただ耐えるしかない黒猫。
その光景は正しく地獄だと言えるだろう。
「あっちに空き家があるよ。何年も使ってないから埃まみれだと思うけど」
『構わない。掃除すればいいことだから』
「そうかい。じゃあ、好きに使ってくれ」
鍵を受け取って空き家へと歩を進める。ふと、誰かに見られている気がして後ろを振り返った。
相変わらず石を投げられている黒猫。だが、目だけはしっかりと海の事を捉えていた。
『この世に生きていたって辛いだけだぞ』
それでも猫は海から目を離さなかった。
その目は確かに助けて欲しいと訴えて。
石を投げている子供らの横を通り、倒れている猫の前にしゃがむ。後ろがとてもうるさかったが、海はただ猫をじっと見下ろした。
『お前、綺麗な毛をしてるじゃねぇか』
今は土埃で汚れてしまっているが、洗ってやればとても綺麗な黒に戻るだろう。
自力では動けない黒猫を抱えて空き家へと向かう。黒猫を助けた海を村人たちは驚き、指を差した。
余所者は何をするかわからない。そう言って海の事を忌み嫌うようになった。
『心配することはねぇよ。人間ってのはそういうもんだ』
じっとこちらを見てくる黒猫に海は安心させるように呟く。
その日、黒猫に霞と名前を付けて共に過ごすことになった。霞を拾ったことで村人からは話しかけられることはなくなったが、海は気にすることなく毎日を過ごした。
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