狐の嫁入り
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息が苦しくなってきたところで土方の胸を叩く。それでも唇が離れず、もう限界だという所で右足を振り上げようとしたら土方は離れていった。
「おい。てめぇ蹴ろうとしただろ」
『苦しいって言ってんのが分かんねぇのかよ』
「相変わらず下手くそだな。鼻で呼吸しろっていつもいってんだろうが」
『お前みたいに手馴れてないから出来ねぇんだよ』
「それどういう意味だ」
『そのまんまの意味だ』
こんなキスをするのは土方が初めてだ。だから毎回緊張して呼吸なんて上手く出来ない。そんな海と違って土方は自然な流れでしてくるのだ。
こんなこと慣れていなければ出来ない。
自分で言っておきながらズクリと胸が痛む。
「あ?慣れてるわけねぇだろ。お前が……初めての相手だっつうのに」
照れくさそうに言った土方に海は目を丸くした。
『は……は?』
「何驚いてんだてめえは。こんなこと誰彼構わずやるわけねぇだろうが」
『いや、だってお前……』
初めての相手が海にしては上手すぎる。海と付き合うまでに他の誰かと付き合っていたり、そういう店に行っていてもおかしくはないくらいに。
「なんだよ」
『い、いや、なんでもない』
「なんでもないってツラじゃねぇだろうが」
『なんでもないって言ってるだろ!』
おかしい。練習をしていなければおかしい。
「お前……顔真っ赤だぞ」
『うるさい!ちょっと黙ってろバカ!』
わけがわからず土方から離れる。
段々と顔が熱くなっていく。手で隠そうとしたが、土方に腕を掴まれて阻まれる。
「海、お前大丈夫か?」
『いいから!手を離せ!』
「んな顔されて離せるわけねぇだろ」
ぴたりと頬に土方の手が触れてピクリと身体が跳ねる。
「なにがそんなに恥ずかしいんだ」
『べ、つに恥ずかしくなんか……!』
「キスなんかいつもしてることだろ。何を今更照れてんだ」
違う。キスで照れてるわけじゃない。何度もしているのに慣れない自分が恥ずかしくてたまらない。土方の方は慣れているというのに。自分だけはずっと初めてのような感覚。
『離せッ!ちょっと今は放っておい──』
「落ち着け。ほら」
グイッと引っ張られて土方の腕の中へと閉じ込められる。宥めるように背中を撫でられると、少しずつだが落ち着いてきた。
『土方……』
「落ち着いたか?」
『ん、』
「突然どうした?」
『それは……その』
「言いたくねぇなら無理には聞かねぇが、嫌なことがあるなら言えよ」
誤解されてしまった。キスしたことが嫌だと思われたらしく土方は辛そうに呟く。
これはまずいと思って海はぽつりぽつりと話した。
「お前……可愛すぎねぇか?」
『は、は!?人がどんだけ恥ずかしく思ってたか!』
「いや、あー……悪い」
くくく、と耳元で笑われて今度は怒りが湧き上がる。でも、土方に強く抱きしめられて怒るに怒れなかった。
「海」
『なに……』
「俺もお前と同じだ。慣れてるわけじゃねぇよ」
『でもいつも、』
「好きなやつの前でヘタレてられるかよ」
だから毎回強がっていた、なんて言われてしまったら愛しさが溢れてきてしまう。土方の背へと腕を回して優しく抱きしめ返す。
「海、好きだ」
『俺も……好き』
雨が止むまで橋の下で海たちは抱きしめあっていた。
まるで結婚式を迎えた新婚のように。
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