お迎えにあがります
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「ん……いっ……っ」
「あ?漸くお目覚めか?」
薄らと目を開けて頭を上げようとした時に側頭部に感じた痛み。
痛む頭を押さえようとして手を引っ張ったが、何かで縛られているのか動かせない。
「おいおい、しっかりしろよ。アンタには喋ってもらわねぇとなんねぇんだからよ」
「誰だてめェ」
椅子に縛られている自分を見下ろす男。何故こんなことになっているのか。段々とハッキリしてきた頭で気絶する前の記憶を引っ張り出した。
確か自分は海と共に見回りに出ていたはず。夕方にしては人の少ない通りを歩いていた。
"今日はあんま人いないんだな"
少し寂しそうに呟いた海。その日は海によく話しかけていた町民達がいなかった。いつも喧騒としている町中が不気味なくらい静かだった。
今日は何事もなく見回りが終わりそうだと思っていた矢先、海が何かを見つけて民家の路地へと走っていった。何かと思って追いかけて──
「海ッ!」
「うおっ……やっと思い出したか?」
そうだ。あの後、海は路地で蹲っていた男に襲われた。体調が悪いのかと声をかけた海に向かって男は持っていた小刀を突き出した。
咄嗟に海は受身を取って躱したが、その躱した先に土方がいた。男は海を刺せないと判断し、素早く矛先を土方へと変えた。
土方はそれを避けられなかった。そのせいで海が土方を庇うように男と土方の間に入り込んだ。
小刀は海に刺さることなくふっ飛んでいったのだが、海は土方に凭れるようにして倒れた。男が持っていたのは小刀と注射器。
その後、残った土方を始末するべく男の仲間たちが来てボコられた。倒れた海を守りながら応戦するには手のかかる相手だった。
「テメェら海はどこだ!」
「あー……アンタの部下な。中々良い根性してるじゃねぇか」
男はニヤニヤと楽しげな笑みを浮かべ後ろを振り返った。土方も男が見た方へと視線を向けて、絶句。
「アンタが起きるまでアイツで遊んでたんだけどよ。中々口割らなくて困ってんだよ」
「海……?」
視線の先に居るのは自分と同じように椅子に縛られている身動きの取れない海。
その海を囲うように立っている三人の男たちは各々手に鈍器を持っていて、その先からはぽたぽたと血が垂れていた。
男たちの隙間から見えた海は力なく項垂れていた。
その光景を見れば聞かなくてもわかる。自分が眠っている間にコイツらが海にした事が。
「まだ息はしてるから安心しろよ。あんだけ殴ったのにしぶとく生きてるからよ」
「てめェッ!!海に触んじゃねェ!!!」
海の髪を掴んで顔を上げさせる男に叫ぶ。怒りで噛み締めた唇から血が出たが、痛みを感じなかった。
『……おはよう、土方』
やっとお目覚めか?眠り姫。
そう言って笑った海は疲れた様子で土方を見た。
「海ッ!!!」
「良かったじゃねぇか、上司がちゃんと目ェ覚ましてくれてよ。心配だったんだろォ?」
『そりゃなァ。起きてくれねェと溜まった書類誰が処理すんだよって話になっからな』
頭から流れる血は海の白いシャツを赤く染めている。散々殴られたであろう顔はアザができていて、見るのも痛々しい。
それなのに海は笑って土方のことを見ていた。
「こんな時にも仕事の話だなんて精が出るねェ。俺たちがお前らを生かして帰すと思ってんのか?」
『愚問だな。逆にお前らが生きてここから逃げられると思ってんのか?』
鼻で笑う海に男は機嫌を悪くし、持っていた角材で海の頭を殴打した。
辺りへ飛び散った血。それは土方の足元まで届いた。
「自分の置かれた状況をちゃんと理解してねェみたいだな坊主」
『ちゃんと理解してる。まぁ、今のところは……』
"お前が起きてくれてよかった"
海は土方を真っ直ぐと見据えて、口パクで伝えると優しく微笑んだ。
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