事件ファイル(1)後編
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「海!」
『ついてきたのか?』
「ついてきたのかって……お前刀もないのに一人でどうすんだよ」
不思議そうな表情をしていた海は銀時に言われてハッと目を見開く。
『……忘れてた』
「お前ねぇ……」
『山崎を回収したら上に戻るつもりだったから』
「それでも何があるか分かんねぇだろ」
身を守る術は持っていた方がいい。こんな病院内で何が起きるか分からないのだから。
「てかさ、さっきの話全然意味がわかんねぇんだけど」
『ああ、戸坂は伊敷山の……この廃病院の元院長である伊敷山の子供だろうな』
「子供?確か息子が行方不明になってるっていう?」
『そっちの子供は何処にいるのかは知らない。戸坂は次男だ』
「三兄妹だったってこと?」
『随分と前のことだから忘れてた。長男の方とはよく顔を合わせていたが、その下とは一度しか会ってなかったからな』
その時のことを思い出しているのか、海は渋い顔で俯く。どうやら良い記憶ではないらしい。
『なんで忘れてたんだろうな。人から恨まれることに慣れたのか。子供にあんな顔で"父親を返せ、泥棒"なんて言われたのに』
「そんなこと言われたのかよ」
『親を連れていかれたら普通はそうなるだろ。俺らだって……』
きっと海は松陽のことを思い出しているのだろう。眉間に皺を寄せて辛そうな顔で俯く海になんて声をかければ良いか分からず戸惑う。
松陽の時とは状況が違うのだ。戸坂の親は悪事を働いたことで当然の報いを受けることになった。だが、松陽はただ銀時たちを育てていただけだ。
失われ方が違う。そう言えたら良かったのだが、そんな事を言おうものなら海に怒られそうだ。
「あー……なんだ。そりゃ確かに親がいなくなっちまったらそうなるだろうけどよ。海たちは仕事でそいつらの親を捕まえたわけであって、別に嫌がらせで捕まえたわけじゃねぇんだから、そんなに気にすることはねぇよ」
もっと良いフォローの仕方があったかもしれない。でも今の銀時にはこれが精一杯だ。しどろもどろしながら必死に海を励まそうと言葉を紡ぐ。少しでも気が晴れてくれたならと思いながら。
『銀、』
「なに?」
『もういい。分かったから』
憂いを帯びていた顔はいつの間にか消え去っていた。その代わりに海は腹を押さえて笑っている。
『慰めてくれてんのはわかった。でも、お前……下手くそすぎるだろ』
「あ!?人が必死に励ましてんのになんだその言い草は!」
『だから堪えてたんだろ。でももう無理……フォローの仕方が下手過ぎて……』
ふはっ、と吹き出して笑う海に銀時は不機嫌そうに顔を歪める。人の気も知らないで、と怒ろうと思ったけど、落ちていた気分がここまで戻ったのであれば、無い頭を振り絞った甲斐があるというもの。笑われたことについては許せないが。
「へーへー。良いですよ。笑えるほど元気になったならいいですー」
『ん、ありがとな』
「ったく。んで?どうすんだよ。あのあんパン野郎回収したらそのままここ出るのか?」
『爆弾の処理なんかしてる暇は無いからな。脱出出来るならしたいところだけど』
「いつ起爆されるか分からないってこと?」
『タイマーみたいなのがあったから時限式だってのは分かってる。最初に見つけた時は作動してなかったが、今はどうなってるか分からない』
「それなら確認だけしておくか」
逃げている途中で爆発なんてされたらたまったもんじゃない。あとどれくらいの猶予があるのかは確認しておくべきだ。
屋上から三階へと下りる。罠に気をつけながら、海は爆弾が仕掛けられている所へと向かった。
『こいつはまだ動いてないな』
「こんなところにあったのかよ……」
廊下の突き当たりにある病室の奥。ベッドの陰にそれは置いてあった。如何にも爆弾ですという見た目のそれはまだ起動されていないのか静かに鎮座している。
『これと下にあと二つほどある。一応これも持っていって──』
海が爆弾から顔を上げた時、カチッという音が病室に響いた。
『「あっ」』
爆弾に付けられているモニターに数字が映し出される。
「お、おい……お前何したの!?」
『な、なんもしてねぇよ!!』
突然動きだした時計に銀時たちは慌て始める。目の前にある爆弾が動き出したということは、他のものも動き出したに違いない。
「とりあえず他のやつも見に行くぞ!それ……動かせんの!?」
『置いてあるだけだから動かせるは動かせんだろ……!』
「ちょ、そんな雑に持ち上げんなよ!」
ひょいっと持ち上げる海にさーっと血の気が引く。思わず身構えてしまったが、爆発する気配は無い。
『早く他のも見に行くぞ!』
爆弾を手にして走り出す海の後を追う。時限式とはいえ、爆弾は爆弾。そんなものを小脇に抱えて走る海の気が知れない。自分なら放り出したくなってしまう。
いざという時は海の手から奪い取って窓から放り投げてしまおう。そう思いながら二階へと駆け下りた。
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