事件ファイル(1)後編
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『今回の一件を起こした理由を簡潔に話せ』
「ぐっ……!」
「海くん、多分それじゃ何も話せないと思うけど」
『は?』
倒れている戸坂の背中に海は腰を下ろして事情を聞こうとしている。肺を圧迫されている状態で話などできる訳もなく、戸坂は苦しそうに呻いているだけ。これでは話せるものも話せないだろう。
「ちょっとこっちおいで」
『手錠が無いから拘束出来ないんだよ』
「あー……じゃあちょっと待ってて」
ここまでボコボコにされたのであれば逃げ出す気力も皆無だ。それでも海は戸坂が逃げないように警戒している。
これでは会話どころではない。海が手錠を持っていないというのなら、持っているやつから借りればいいのだ。
屋上の扉を開いて土方達を呼び寄せた。
「どういう状況だこれは」
『犯人確保』
「そりゃ見りゃ分かる。なんでてめえは戸坂の上に座ってんだ」
『手錠が無いから……重石みたいなノリで』
「ったく……声かければいいだろう」
呆れた様子で土方は持っていた手錠を取り出して戸坂の手首へと掛ける。後ろ手に拘束されれば戸坂も身動き取れないはず。
「ははっ、皆さんお揃いで……生きてたんですね」
『無駄口はいい。簡潔に話せと言ったはずだ』
すらりと戸坂の顎先へと刀の切っ先が向けられる。どこから刀を?と首を捻っていると、土方がぽかんとした顔で自分の腰と海の手を交互に見ていた。
「おい、俺の刀使ってんじゃねぇよ!」
『少し借りる』
悪知恵が働くようになったかと思えば手癖まで悪くなったのかこの子は。
『正直に話さないようであれば、その腕繋がってないと思え』
「怖いなぁ。補佐の取り調べはみんな嫌がるんですよね。沖田隊長が言ってた通りだ。取調べの最後の砦」
『そんなに腕が要らないのか』
べらべらと喋る戸坂に海は容赦なく刀を振り下ろす。腕が落ちることはなかったが、肩に深々と刺さってボタボタと血が床に落ちる。
「ぐぅあぁああ……!」
『もう一度聞く。今回の一件を起こした理由を話せ』
「さっき言った通りですよ……貴方を殺すために計画したんです」
『それだけの為に万事屋を巻き込んだのか』
「貴方をここに来させるにはそれしか無かったんですよ。わざわざ見廻りの順番も変えさせてね」
「お前……まさか原田を襲ったのか!?」
「簡単でしたよ。一緒に見廻りに出れば楽に片付けられるんで」
『そうか』
収まっていた海の殺気がまた揺らめき出す。傍で見守っていた新八と神楽が怯えた顔で銀時の後ろへと隠れた。
「銀さん、大丈夫……なんですか?」
「海本気で怒ってるアル」
「これは俺でも抑えられねぇよ」
こうなってしまったら誰にも止められないだろう。海がどこまでするか分からないのが一番恐ろしい。
『ああ、もう一つ聞いておかないとか』
刀を真上に振り上げながら海は戸坂に問いかける。
『お前らあれだけの爆発物をどこで手に入れた』
「……そんなものどこでも手に入りますよ」
『馬鹿の一つ覚えのように同じような仕掛けしか作れないような奴があれだけの爆発物を作れるとは思えない。病院内に設置してあるあの時限爆弾は一体誰が用意したんだ』
「……は?」
驚く土方と銀時の前で何故か戸坂も訳が分からないと目を丸くする。
病院内に爆弾が仕掛けられているなんて初耳だ。入口の所にあったものなら知っているが、中に設置されていたなんて話は知らない。
「爆弾って何の話だ!」
『病院内を探索してる時に見つけた。その時点ではまだ動いてなかったから声をかけなかったが……こいつが知らないっていうならまずいな』
「何がまずいのよ」
『爆弾の起爆装置を持ってるやつが他にいる』
「戸坂が犯人なんじゃねぇのか」
『病院内の仕掛けはこいつの仕業だ。だが、俺たちを消そうとしてるのが他にもいるって話』
「そいつら誰よ。こいつの他に一体誰が?」
『それこそ銀時たちとは関係の無いやつらだ』
海は申し訳なさそうに目を伏せる。その表情から察するに、攘夷浪士絡みなのだと分かった。
「そういうことね。なら早くここから出た方がいいんじゃないの?」
『だな。土方、戸坂を頼む。俺は山崎を連れてくるから』
「爆弾があるってのに一人で大丈夫なのか?」
『多分?』
持っていた刀を土方の腰にある鞘へと戻し、海は一人病院内へと戻っていく。その後を銀時も追おうとしたところで戸坂が笑い始めた。
「ははっ、所詮僕たちも使い捨ての駒だったってことか……!父さんも兄さんもアイツらに良いように使われてッ!」
『分かっていながら手を貸したのはお前らだろうが。それを後から文句垂れるな』
「あんたさえ居なければ父さんが捕まることは無かったんだ!あんたさえ……あんたさえいなければ!!」
『それは悪かったな。次からはバレないようにしろよ』
それだけ残して海は屋上の扉をバタンッと閉めてしまった。
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