事件ファイル(1)後編
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星が瞬く空の下で二人きり、なんてとても良い雰囲気なはずなのに。
かたや記憶のないふりをしている腹黒恋人。かたや刀を持ってにっこりと笑っている男。
「(ムードもクソもねぇな、これじゃ)」
こんな事でなければ、海を抱き寄せてキスでも……となりそうなものを。殺伐とした空気を漂わせているこんな場所では妄想止まりだ。
「遅かったですね。補佐ならもっと早く来ると思ってたんですけど」
『坂田、さん……』
男の姿を見て怯えるように海は銀時の背へと身を隠す。それに驚くように男は瞬きを繰り返した。
「まだ戻ってないんですか?あれだけの衝撃を与えたのに記憶が戻らないなんて……案外補佐って図太かったり?」
「お前か、あの水槽を用意したのは」
「ええ。そのまま死んでくれてもよかったんですけどね。でも、あなたが居るからきっと死ぬことはないなぁって」
月明かりに照らされて男の顔がはっきりとしてくる。行方不明とされていた戸坂がそこに居た。
「海を狙う理由は一体なんだ」
「そんなの一つしか無いですよ。死んで欲しいからです」
「こいつを慕ってたんじゃなかったのか」
「あんなの補佐に近づくための演技ですよ。そうじゃなきゃ警戒心を持たれますから」
「随分とせこい真似するじゃねぇか」
真選組に警察組織に所属するということは誰かから恨まれることになる。それは海も知っていること。だからそんなに驚く事でもない。
でも、仲間から向けられる殺意は精神的に堪えてしまうだろう。
「海」
こそりと声をかけると、それに応えるように海は銀時の羽織を強く掴む。表情を見ることは出来ないが、きっと動揺しているだろう。
「補佐をこちらに渡してください」
「なんでてめぇにやんなきゃなんねぇの?」
「記憶のない補佐とやり合ってもつまらないからですよ。まさかあの薬で理性だけでなく、記憶まで飛ばすとは思いませんでしたけど」
「やっぱりてめぇが……」
「そんなに睨まないでくださいよ。万事屋さんだって楽しめたでしょ?どうでした?宇宙産の媚薬は。地球の偽物商品なんかより効果はあったでしょう?」
食べ物に薬を混ぜたのは戸坂で確定。でも何故そんな事をしたのか。媚薬ではなく致死性の高い毒物を混ぜて入れば、その場で海を片付けられたはず。
「面白いじゃないですか。あの大人しい副長補佐が乱れてる姿なんて。薬で理性を飛ばして相手が誰だか分からないのに無様に腰を揺らすなんて……見てみたくありません?残念だったなぁ……もっと早く行けば良かった。そうすれば補佐の乱れた姿をカメラで撮ってあげたのに」
戸坂のいやらしい笑みで何かがプツリと切れた。怒りで我を忘れて飛びかかる銀時に戸坂は満面の笑み。
「そんなに怒ることですか?一番得をしたのは万事屋さんでしょ?扉に細工して開けられないようにしてまで……情事に耽っていたくせに」
「黙れッ!!」
「さぞ楽しい一時だったでしょ。貴方たちが恋仲だってことも知ってたんですよ。だから万事屋さんに依頼してここまで来てもらったんですから」
「まさかてめぇ、俺たちを狙ってたんじゃなくて最初から海の事を!?」
「万事屋さんに恨みなんて無いですからね。あるのは……兄を殺した副長補佐、桜樹 海だけだ」
「兄を……殺した?」
戸坂の剣先が海の方へと向く。丸腰の状態で刀を向けられては太刀打ち出来ない。慌てて銀時は海の元へと駆け寄ろうとするも、海は銀時に向けて制止の手を向けた。
『ああ、段々分かってきた。お前、伊敷山の子供か』
「頭のキレる人間だからすぐに分かってしまうと思ってたのに。存外大したことないんですね」
『そりゃ悪かったな。だが……』
一歩、海が戸坂の方へと踏み出す。その瞬間、ぞわりとした寒気に襲われる。じっとりとまとわりつく恐怖に手がカタカタと震え出す。
『お遊びもここまでだ』
「(あれは……かなり怒ってんな)」
久しぶりに浴びる海の殺気に銀時はこの場から逃げ出したくなった。
余裕を浮かべていた戸坂も海を前にして膝が笑っている。あの状態ではもう海を殺すなんてことも言えないだろう。
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