事件ファイル(1)後編
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なんだかんだありながらも銀時たちは三階へと来た。
荒らされていた一階と二階とは違って、三階はさほど汚れてはいない。つい最近まで使われていたような感じさえある。
「初めて来た時は気にしてなかったけど、意外と綺麗に保たれてんのね」
『閉鎖になってから病院内に入ったのは俺たちと、あとは肝試しに来たやつらくらいだろ。まあ後者はここまで上がってこなかったみたいだけど』
よく見るとナースステーションの台に積もっているホコリが二階のものより厚い。海の言う通り、三階までは誰も上がってこなかったようだ。
「普通上まで来ない?なんで二階なんて中途半端な」
『あれがあるから』
そう言って海は廊下の方を指差す。その先へと視線を向けると、壁一面に赤黒いシミがあるのが見えた。
「なにあれ」
『俺たちが攘夷浪士を捕まえるためにここに来たのは知ってるだろ?必然的にそうなる』
「あー……なるほど」
相手だって大人しく捕まる訳にはいかない。武器を手にして真選組に抵抗してくるはず。その結果、壁に血痕が残った。
「でも下には無かったじゃん。なんでここだけこんな酷いの?」
「当時やつらは作戦会議中だった。三階の空き部屋と二階の部屋とで別れていた。二階の方は労せず捕らえることが出来たが、三階にいたヤツらはそれなりに腕っ節のある輩だったんだ」
『先に三階まで上がってたのが俺だった。捕まえようにも人数が多くて、手加減なんか出来なくて。それでああなった』
「攘夷浪士が壁のシミになったみたいな言い方やめてくれない?え?なに?まさかあそこって……でるの?」
ぞわりと鳥肌が立つ。病院というだけでも嫌な雰囲気なのに、その場所で何があったかを知らされたらもっと怖くなる。
咄嗟に海の手を掴んで恐怖を紛らわそうとしたけれど、あまり効果は感じられない。
『気をつけろよ?一応"掃除"はしたが、細かいところまではしてない。多分──』
「いい!!言わなくていい!!」
これ以上は聞かない方がいい。何となく分かってしまったから。
「そ、それよりも!早くここから出るんだろ!?」
早く屋上へ、と海を急かして階段へと進む。
この扉を開ければ外に出られる。ほっと安心してドアノブに手をかける銀時に海は制止の声を投げかけてきた。
『待った』
「え?なに?」
『土方、携帯貸してくれ』
「あ?何に使うんだ」
『電話として』
扉を開けようとした銀時を引き止めてから海はどこかへと電話をする。その相手は弟の朔夜で、どうやら何かを頼んでいるようだ。
「何する気だお前」
『保険をな』
「保険だ?」
『扉は俺が開けるから。それと土方と新八たちはここに残っててくれ』
「どういうことか説明しろ」
「そうですよ!一人で行ったら危ないんじゃ……」
『逆だ。全員が身動き取れなくなるのはまずい』
扉の先を睨むように見る海に土方は目を大きく開いた。
「……いんのか」
『多分な。ここで待ち構えてなければ、今頃山崎の悲鳴が聞こえてくるはず』
後ろから襲おうとしているのなら、二階に残った山崎が先に狙われる。でも、彼の声が聞こえてこないということはそういうことだ。
「まさか囮にしたのかよ。ボロボロで可哀想だから置いてきたんじゃなくて?」
『たまには犯人とかち合うのも良い経験になるかと』
「それを囮っていうんだよ。お前意外と酷いな」
『いざという時のために必要だろ。犯人を前にして刀を抜けませんでしたじゃ話にならない』
「今海持ってないけどね。刀」
抜くどころか所持してない場合はどうするのかと問う銀時に海は不敵な笑みを浮かべた。
『どうするかって?そんなもん決まってんだろ』
がちゃりとドアノブを回して屋上へと足を踏み入れる。
『行ってみましょう。坂田さん。もしかしたらここから出られるかもしれませんよ』
屈託のない笑みをする海に銀時は口元を引き攣らせた。
「そーいうことね。やっぱお前腹黒いわ」
真選組に入ってからというものの悪いことを覚えすぎな気がする。自分はこんな事を教えたことはない。大事に大事に見守ってきたというのに。一体誰がこんなことを。
「お前か」
「あ?」
扉が閉まる間際、銀時は土方をジト目で睨む。思い当たる人物と言ったらこいつしか居ないだろう。
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