事件ファイル(1)後編
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「このまま屋上に上がればいいんじゃねぇのか」
『新しく設置された仕掛けにかからないようにしてな』
一階から二階へ、これから三階へと上がるというところで土方と海は足を止める。山崎から見取り図を受け取って当時の状況と今の状況を見比べていた。
『今のところ仕掛けはなさそうだな』
「階段で引っかかったあれくらいか。それ以外は特に変わった形跡はねぇな」
「ほんとに大丈夫なの?また変なのがあったりしねぇ?」
『行ってみないことには分からない。ただ……』
「ただ?」
『仕掛けの張り方が分かりやすくて助かる』
「分かりやすい?仕掛けが?」
今までのやり方を思い出すといいと言われて銀時はこれまでの仕掛けを頭に浮かべる。最初は地雷、そしてその先の爆弾。階段に仕掛けられた機関銃と地下のノコギリの刃と串刺し。
掛けられていたものは様々だが、どれも人を殺すのに威力は抜群のものだ。
「全然分かんないんだけど」
『やり口は統一されてるだろ。全部、トリガーは糸だ』
「あー……そういえば」
入口に設置されていた爆弾には糸が掛けられていた。土方が階段で踏んだのも糸。でも、地下の装置は違う。
「地下でかかったのは糸じゃなかったけど」
『院長はそんな簡単なものでは無かったからな。あの男は狡猾な仕掛けを作製してた。人の行動パターンを研究してな』
地下の仕掛けは確かにやり方が違っていた。今までのは掛かったらそれきりだったけど、地下のものは二段構えが多かった。最初にかかった仕掛けを避けた先に別の仕掛けがあり、それに掛かっては逃げ、そしてまた別の仕掛けに足を取られる。
タチが悪いと思いながら銀時は全て避けてきた。普通の人間なら避けられずに全て受けてしまっただろう。銀時が避けられたのは全て海のおかげだ。彼と手合わせを何度もしているうちに培った動体視力。もし海との経験を積んでいなかったら銀時も怪しかったかもしれない。
『そのやり方でしか仕掛けを施せないのか、それともこちらをバカにしているのかはわからないが』
「なんつうか、バカにしてるのは海の方なんじゃ……」
『何か言ったか?』
「ナンデモアリマセン」
分かりやすいと言っている時点で海は仕掛けを作った人間を馬鹿にしている。こんなしょうもないものを作りやがって、と内心では思っているのかもしれない。というかなんなら顔に出ている。
本人は自覚してないみたいだが。
「で?そんでどうするつもりなの?」
『数打ちゃ当たる、その理論で仕掛けているとしたらヤバいなって話』
「掛からなきゃいいんじゃねぇの?」
『まあそうなんだが……』
「うわっ!副長!補佐!ここやばいですよ!!」
海と共に声のした方へと目を向けると、そこには隊服がボロボロになった山崎が泣きそうな顔をして床に這いつくばっている。
「運が無いとかで済ませられる?」
『無理だろ。わざとかかりにいってるとしか思えない』
「助けてやれよ。仲間なんだろ?」
『忠告してもこれだ』
銀時たちが避けた仕掛けに尽く山崎はかかる。これでは新八や神楽が巻き添いをくらいそうだ。
『新八、神楽』
「なに?」
「どうしました?」
『今後、山崎が仕掛けにハマったとしても無視するように』
「はーい」
「はーい」
「酷いですよ補佐ァ!」
『かかるやつが悪い』
子供らの安全を第一に置いている海からしたら山崎はお荷物でしかない。それは分かるが、なんだか山崎が不憫に見えてしまう。
「お前ここで待機してれば?」
「えっ、置いてけぼり!?」
「だってそんなボロボロで動けんの?」
「動けるよ!これくらいならまだ大丈夫だから!」
ぐっと親指を立てて大丈夫だと言い張られ、海は思いため息を一つ。タバコを吸いながら黙って見ていた土方も呆れの色を見せている。
「山崎、てめえは二階で待機してろ」
「副長までそんなこと言うんですか!?」
「見張れっていってんだよ」
「俺は大丈夫ですから!」
「副長命令だ。山崎、お前は二階の見張りをしろ。もし誰かが来たらすぐに連絡してこい」
「そ、そんなぁ……」
まるでダンボールの中に捨て置かれた子犬のようだ。
しょぼんと落ち込んだ様子で二階のフロアに山崎は佇む。ちらちらとこちらを伺っては、土方と海から"戻ってこい"の言葉が出てくるのを待っている。
『はあ……』
「そんな重苦しいため息つくくらいなら連れてってやればよかったんじゃない?」
『あんな状態で連れて行けるか』
「怪我したら可哀想だって?」
ぐっと海は押し黙る。前を歩いている土方もそう思っているのか、口元にあるタバコが上下に行ったり来たりしていた。
『あいつは鈍すぎる。あれでよく今まで監察の仕事をしてきたもんだな』
「お前が鋭すぎるだけだろうが。大体、分かってんなら山崎に教えてやれ」
『教えた瞬間引っかかるからどうしようもない』
ため息をつく二人に銀時は苦笑いを浮かべる。
手のかかる部下に頭を悩ませる上司の図だ。
「銀さんにはいつも困らせられてますけどね」
「自分は違うなんて思うなヨ」
「人の心を読むんじゃねぇよ」
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