事件ファイル(1)後編
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一階へと戻った銀時たちに新八と神楽が飛びついてきた。
「海さん!すみません、僕のせいで!」
『問題ない。それより怪我はしてないか?』
「えっ、まさか海さん記憶が!」
『戻ってる。大分迷惑かけたな。土方たちも悪かった』
「戻ってんならいい。次から気をつけろよ?」
『ん、わかった』
素っ気ない返事に聞こえるけど、土方も安心したのかほっと一息ついている。
『一応こうなってる状況は分かってはいるけど、頭の中整理しきれてないから……』
「考えさせてくれって?」
『出来れば』
「ちゃんと返事はしろよ?いいな?」
一つのことに集中すると海は周りを見れなくなる。しかも銀時や土方がいる状況となれば、それは拍車をかけるだろう。
「手は繋いでおくからな」
『そこまでしなくてもいいんじゃ』
「ふらっと居なくなって迷子になってましたなんてシャレにならねぇだろうが」
集中しすぎて迷子になるというのは過去に何度もやられている。だからその度に手を掴んではぐれないようにしなければならない。でないと彼はすぐに居なくなってしまうから。
『そこまで……あー、いやいい。わかった』
銀時をキッと睨んだかと思えば、その目はすぐに穏やかになる。記憶を取り戻してからの海は少し変だ。妙に素直というかなんというか。
「嫌なら別にしないけど」
『いい。その、繋いどいてくれ。今は気にしてる暇はない』
「あっそ?」
海の方から手を差し出され、銀時は流れるようにその手を握る。
「(素直すぎてなんか……気持ち悪いな)」
本当に彼は海なのかと疑ってしまう。それくらい素直すぎるのだ。首元に見えるチェーンが本人だと訴えているけれど、それでもなんだか怪しく見えて胸がざわつく。
「海」
『なんだ?』
「……自分の異名言える?」
『急になんだよ』
「いいから。ちょっと言ってみて」
訝しげな顔を向けられるが気にせず急かす。
銀時と違って海の異名はあの戦場にいた者たちにしか分からない。攘夷志士の間でも幻ではないかと思われていた存在。戦地で駆けずり回っていた銀時や高杉の異名は瞬く間に広がって知れ渡った。でも、海の異名だけは知る人ぞ知るものとなっている。
そしてこの異名が広がらなかった一番の理由は本人があまり好んでいないからだ。
『……蒼き閃光』
嫌そうに呟かれるも、逆に銀時は安心で強ばっていた顔が緩んだ。
「うん。なんか安心した」
『何でいきなり聞いてきたんだ』
「なんかやけに素直だからよ。もしかして海じゃねぇのかと思って」
疑ってしまった、と正直に話すと、海は銀時から目を逸らした。
『迷惑を……かけたから』
「うん?」
『今回は色々と銀時に助けてもらったから。意地張ってこれ以上面倒をかけるわけにはいかないと思って』
「それで素直に言おうって?」
こくりと頷く。気まずそうに俯いている海の頭に手を乗せて乱雑に髪を掻き乱す。
「そんなに助けたつもりはないけど?むしろ俺の方が助けてもらってばっかだし」
『病院に運んだだけだろ。俺は……』
「海が運んでなければ出血多量で死んでたし、ここに進んで入ってきてくれなければ新八か神楽が仕掛けに掛かってた。それだけでも俺は随分と海に助けられてると思うけど?」
『俺はそれ以上のことをしてもらってる。新八と神楽を守るのは当然のことだろ。子供は守るべき存在だ』
ああ、この話はこのまま続けていても平行線になってしまう。互いに助け合うのはいつもの事なのに。どうして今日に限ってこんなにも頑ななのだろうか。
『病院にいた時もそうだろ。俺が記憶を無くしてたときもずっとそばにいてくれた。何があるか分からないのに。退院の時に狙撃だってされてんのにお前は──』
これ以上言わせてはならない。そう思って海の口を塞ぐ。
突然キスされた事で海は驚いてピシリと固まった。
「それ以上は言わせねぇよ?俺がしたくてしたの。文句は聞かねぇから」
『な……は……』
「まだ言うなら何度でも塞ぐけど?」
再度口付ければ海は押し黙る。というか、びっくりしすぎて何も言えなさそうだ。キスなんてこれまで何度もしているから慣れていると思ったのに。こんな顔をされては悪戯心が芽生えてしまう。
「海、もう一回する?」
『あ、は……はあ!?』
「そんな驚くことかよ」
まるで付き合いたてのカップルのような初心さだ。可愛らしく思いつつも少し呆れも感じる。そろそろ慣れてきて欲しい。
「あのさ。そんな毎回キスする度に身構えなくても良くない?それともなに?俺の事好きすぎて緊張しちゃうーって?そんな女子中学生みたいなノリはこっちが恥ずかしく──」
『わ、るいかよ』
「え?」
『好きすぎて……悪いかよッ!』
「……え?今……え??」
『悪かったな!!女子中学生みたいで!!』
瞼に涙を溜め、顔を真っ赤にして海は怒鳴る。その声に新八たちが何事かとこちらを振り返ってきた。
「海さん?大丈夫ですか?」
「あっ、いやなんもねぇから」
「そうですか?」
慌てて大丈夫だと声をかけて事なきを得る。海の方へと目を向けると、これでもかと銀時のことを睨んでいた。
「いや、そんなに想ってくれてるとはね。うん。なんか……こっちが恥ずかしくなってくるんだけど」
『ふざけんな。毎回毎回なんともない顔してるくせに』
「そりゃあ……イメトレしてますし?」
海を前にして無様な姿は晒せない。だからいつも脳内であんな事やこんなことをしている。それでもたまに海が銀時の予想を上回ってくる時があるから気が抜けない。
今もそうだ。こんなにデレられると思っていなくて、銀時の心臓は爆発寸前になっている。ここに誰もいなければ。廃病院なんて怪しげな場所じゃなかったら。
海を思い切り抱き潰していた。
「あ、そう。俺の事大好きなのね。そうですか」
今できるとしたら。何とでもないと言いながら、赤くなってきた顔を隠すことくらいだ。
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