事件ファイル(1)後編
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「他は何ともないのか?」
『ない。まだ少し記憶が混濁してるが……』
「頭が痛いとかは?」
『大丈夫』
少し休んだ所で海はフラフラと動き回る。先程まで溺れて意識を失っていたというのに。
「無理はすんなよ?ここ相当やべぇんだろ?」
『地下は特に。よく一人でここに来たな。土方たちは渋っただろ』
「俺も渋ってたら海は今頃死んでるけど?」
『それはそうだけど……ここに来るまで仕掛けにかからなかったのか?』
「かかったよ。ノコギリの刃が飛んできたし、なんかよくわかんねぇ針に串刺しにされそうになったし」
酷い目にあったと話す銀時に海は眉間に皺を寄せる。
『怪我は』
「するわけねぇだろ。あれくらい避けられる」
『それなら……良かった』
「なに?心配してくれたの?」
『別に……いや、心配した』
そんなわけないと返されると思っていたので拍子抜けした。まさかこんな素直に認められると思わなくて。
「海?」
『ここは俺でも二度と入りたくないと思ってた場所だ。至る所に血の痕は残っているし、仕掛けも全て解除しきれてない。そんな危ない場所に銀時を一人でこさせたんだ……悪かった』
「謝ることはねぇよ。俺は来てよかったと思ってる。じゃなきゃ海を見つけられなかったしさ」
『銀……』
「だからそんな顔すんなって。いつもみたく澄ました顔してりゃいいんだよ」
愁いを帯びた顔に手を伸ばして頬を撫でる。
「俺は大丈夫だから。な?」
『……ん』
安心させるように抱きしめる。銀時の背中にも海の腕が回り抱きしめ返され、嬉しさで口元が緩む。
「さて……いつまでもここに居たら上にいるヤツらが騒ぎ出しそうだな」
『入口は開かないんだっけか』
「うん。シャッターが降りてて出られない。だから屋上に行って外階段から脱出しよって話」
『そうだな……ここは入口が閉められたらそこからしか出られない』
「ということは待ち伏せされてるかもしれないってことか」
『そうなる。銀時、俺の刀は……』
「あっ、家に置いてきちまった」
今日のうちに記憶が戻るとは思っていなかったから刀は置いてきてしまった。こうなるなら持ってくるべきだったか。
『それなら代わりになるものを探さないとか』
「要らないんじゃね?俺や多串くん居るし」
『何があるか分からないだろ。念の為に持っておいた方がいい』
そう言って海はなにか無いかと探し回る。先程銀時も周りを見たから知っているが、ここには何も残っていない。あるとしたら叩き割った水槽の破片。
「なんも無いだろ。諦めろって」
暫し考え込んでから海は諦めたように銀時の元へと戻ってくる。
『仕方ない。何かあったら──』
「その時は俺がいるだろ」
だから何も心配しなくていい。そう続けると、海はこくりと頷いた。
『そうだね。銀時さんに任せれば大丈夫だね』
「うん。可愛いんだけどさ。可愛かったけども!!」
真顔でそんなことを言われたら寒気しかしない。記憶が無かったからこその可愛さだ。今聞いても何か裏があるんじゃないかと疑ってしまう。
『なに?なんか文句あるの?』
「やめてくれます!?それ!!怖いから!」
『気色悪い笑み浮かべてたくせによく言う』
「しょうがねぇだろうが!いつもツンケンしてるやつがあんな……あんな可愛くおねだりしてきたら誰だってニヤけるだろ」
『蹴り飛ばすぞ』
「酷くねぇ!?大体、よく知りもしねぇやつから貰ったもん食った海が悪いんじゃねぇの!?」
『ああ……戸坂の方はどうしたんだ。見つかったのか?』
「人の話を聞けよ!!まだ見つかってないけど!?」
『あっそ。見つけたらすぐに言ってくれ。あいつは……必ずこの手で絞める』
海の周りの空気が一気に冷たくなる。戸坂に対して相当な恨みを持っているようだ。
「いやまあ、そうなるのは分かるけどよ。流石に殺すのはまずいんじゃねぇの?」
『誰にも見つからなければいいんだろ?土方たちに知られる前に消すから構わない』
「殺す気満々じゃん……薬盛られたんだからそりゃそうなる……って、え?」
戸坂に薬を盛られたことは覚えている。じゃあ、その後のことは?
「なあ海」
『なに』
「薬盛られたあとの事って……覚えてる?」
『……記憶に無い』
返答に戸惑いを感じる。しかも海は銀時から顔を逸らした。これは確実に覚えている。
「ふうん。そ。覚えてないんだ?それなら教えてやろうか?あの後何があったか」
『必要ない!』
「だって気になるだろ?思い出せないとモヤモヤするだろ?しないの?」
ニヤニヤ笑いながら海の顔を覗き込む。
「なあ、なんでそんなに真っ赤なの?なにをそんなに恥ずかしがってんの??」
『うるさい!!しつこいんだよこのバカ天パ!!!』
「ングッ!!」
ゲシッと蹴り飛ばされて床をゴロゴロと転がる。痛みで呻きつつも、なんだか懐かしくて笑いが込み上げてきてしまった。
『蹴り飛ばされて笑ってるのかよ』
「久しぶりにいい蹴りもらったなぁって」
呆れたように海は頭を抱え、倒れていた銀時に手を差し伸べる。
『……全部覚えてる、から』
病室でしたことを全部覚えてる。そう言って海は恥ずかしそうに俯いた。
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