事件ファイル(1)後編
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かつんかつんと静かな空間に銀時の靴音が響く。
土方の携帯で周りを照らしてみるが、そんなか細い光ではこの闇は祓えない。足元を見るので精一杯だ。
「どこにいるんだ……」
二階から地下まで落ちたのであれば無事では済まないだろう。良くて骨折、打ちどころが悪ければ頭を割っている可能性もある。
早く見つけて病院に連れていきたいが、入口はシャッターが降ろされて使えない。ここから出るためには屋上に行かなければならないのだ。もし、もし海の怪我が酷い状態だったら。
「記憶が戻ってたとしても二階分は流石の海でも……」
落ちる間際に海はしっかりと銀時を見ていた。そして微かに笑っていたのだ。
あれはいつぞやに見た表情と同じ。まさかまたあの顔をこんな所で見るとは思わなかった。
「高いところから落ちるのはもうやめてくんねぇかな。毎回こっちが死にそうな思いすんだから」
あんな顔を見させられても安心なんて出来ない。逆に不安が心を占める。そんな事、彼は知りもしないだろうけど。
「仕掛けっていっても子供騙しみてぇなのばっかじゃねぇか」
地下に来てからというものの、銀時は色んな仕掛けに引っかかっていた。足元にあったボタンを踏んでしまったかと思えば、銀時の顔面目掛けてノコギリの刃が飛んでくる。それを避けて壁に手を付くと今度は天井から大量の針が降ってきた。
確かにこれは土方たちも途中で投げ出したくなるだろう。
一歩進む度に何かしらが作動してしまう。それほど重要なものが保管されているのだから厳重になるのは分かるが、これでは管理している者も入れなくなるのではないか。
「それで時間か」
携帯を開いて時間を確認すると今は十九時過ぎ。暗くなる前から動いていたというのに、もうこんなに時間が経っていたのか。
でも、入口に設置されていた爆弾は時間式のものではなかった。
「まあ今は時間だのなんだのを気にしてる暇はねぇだろうな」
万事屋を、若しくは海を狙っている輩だ。時間で作動するなんて悠長なものは使わないだろう。
仕掛けを作動させて避けつつ奥の方まで進む。そろそろ非常階段の前あたりだというところで、こぽっと水の音が聞こえた。
「なんだこれ」
足元を照らすとそこにはガラスのようなものが見える。中に水が入っているらしく水槽のようだ。
「なんでこんな所に?」
水槽というにはあまりにも大きい。水族館のような……。
「……おいおい……まさかッ!」
嫌な予感がした銀時は木刀を手にして水槽へと叩きつける。表面にヒビは入れど、ガラスが分厚くて割れる様子は無い。
「クソッ!なんか……なんか無いのか!」
辺りを見渡すが、ガラスを割れそうなものは見つからない。
上に戻って土方達を呼んでくるのも惜しい。早くこの水を抜かなければ。でないと。
「なんつうもの作ってんだ!」
水槽の真上は非常階段の入口に当たる。あそこから真っ直ぐここまで落ちてきたとしたら。海はこの水槽の中にいる。
このままでは溺死してしまう。
何度もガラスに木刀を打ち付けたことにより徐々にヒビが大きくなっていく。少しずつだが中の水が盛れ出してきていた。
「早く……壊れやがれッ!!!!」
渾身の一撃をガラスにぶつける。パキッという音と共にガラス全体にヒビが走り勢いよく割れた。大量の水が銀時に押し寄せてきて足を取られる。壁に背中を打ち付けたことで呼吸が一瞬止まった。
「ごほっ……海……!」
枠だけになった水槽の中にぐったりと海は倒れている。その足には鎖が付けられているのが見えた。
「海!!おい、しっかりしろ!」
身体を揺さぶってみるもピクリとも動かない。
「冗談じゃねぇ!こんな所で死なせるか!!」
うろ覚えな心臓マッサージ。これで合っているかは分からないが、何もしないよりはマシのはず。
一度、二度と繰り返すも息を吹き返す気配が見られない。焦りで頭の中が真っ白になり始めた三回目で漸く海が咳き込んだ。
『げほっ……ごほっ……!』
「海!!!!」
『あっ……ぎ、』
苦しそうに水を吐き出す海の背中を優しく撫でる。虚ろな目だが、しっかりと銀時を映していた。
「良かった……ほんとに……」
『ここ、は』
「地下だよ。お前、二階からここまで落ちてきたんだ。それで水槽の中に」
『ああ……通りで……苦しいわけだ』
身体を起こそうとする海に手を貸す。ふらついている身体を抱き留め、そのまま強く抱き締めた。
「起きるなら早く起きろよこのバカ……」
『起きて早々に怒られるのかよ』
力なく笑う海に銀時も小さく笑った。
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