事件ファイル(1)後編
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真っ暗な空間を土方の携帯の明かりを頼りに進む。
「こんな所に仕掛けが施されてたら気づけませんよ……」
「鍵が掛かってたんだろ。それなら誰も入れねぇはずだ」
だからこの階段は安全だと土方は言う。
『ここの鍵はずっと山崎さんが持っていたんですか?』
「う、うん。持ち主に返そうと思ったんだけど、息子さんを見つけられなくて屯所で保管することになったんだ」
『そう。でも、鍵はいくらでも複製できるからね』
「え?」
『ううん、なんでもない』
海の言葉に背中がぞわりと粟立つ。山崎が鍵を持っていたとしても、作ろうと思えばいくらでも作れるのだ。
完全にこの場所は安全とは限らない。海はそう言っているのだと気づいたら、鳥肌が止まらなくなった。
「二階か」
ライトに照らされた壁には二階を示す文字。気分はもう屋上なのにまだ二階なのか。
「ここまで大丈夫だったんだから上も平気だろう」
二階から三階へと上がる階段へと土方は迷いなく上がっていく。その後ろを山崎が続き、銀時も海の手を引いて上がろうとした。
「大丈夫か?」
『うん。僕は大丈夫。銀時さんは平気?』
「俺は大丈夫」
『無理しちゃダメだよ?足、まだ完治してないんでしょ?』
「これくらい何ともねぇよ。なんなら海のことおぶってやろうか?」
『冗談はまた後でね』
くすくす笑う海に釣られて銀時も口元に笑みを浮かべる。怖がっているかと思ったがそうでも無さそうで安心した。
海は子供の頃から狭いところと暗い場所を苦手としている。だからここを通ると言われた時に心配した。
子供の頃の記憶もごっそり抜け落ちているのであればいい。思い出してしまったらその時は海を抱えてここを飛び出るけど。
「銀ちゃん、お腹空いたアル」
「はあ!?お前、散々飯食っただろうが!」
暇、とでも言いたげに神楽がボソリと呟く。
「あんなんじゃ足りないネ」
「人の飯まで食い漁ってて何言ってんの!?」
「はあ、私と海があんな量で足りると思ってるアルか」
家にあった十キロの米はほとんど神楽の胃袋に収まっている。海もそれなりに食べるから、そっちの食料は山崎に手配してもらったのだが、神楽は海の食べ物にも手を出した。
『いっぱい食べるのは良い事だよ』
「いや、そりゃそうだけども!こいつは食いすぎなの!」
『育ち盛りは仕方ないと思うよ』
「そういうレベルじゃねぇから!!」
ギャーギャー喚いていると、前がピタリと足を止める。
「てめえらうるせぇんだよ!!こちとら緊張感持って進んでんのになんなんだ!!」
「あ!?緊張感どころかこっちは明日の飯の危機感感じてんだわ!!」
「知るかそんなもん!!!黙ってついてこい!!」
土方に怒鳴られてこめかみがピキッと動く。自分の後ろで海と神楽が笑っていたが怒るに怒れなかった。
「ったく……だから嫌なんだコイツらに関わるとろくな事が──」
「副長?どうしました?」
「逃げろッ!!」
階段を下りろと言われて慌てて踊り場へと戻る。土方が最後の一段を下りた刹那、上階から聞こえてくる金属音。そして降り荒れる銃弾の雨。
「はあ!?お前何したわけ!?」
「あの暗さで気づくわけねぇだろうが!!」
「ぎ、銀さん!一旦二階の方に入りましょう!?」
来た道を戻り、新八が咄嗟に二階のフロアへと入る扉に手をかける。
「銀さんたち早く!!」
『待って新八くん!』
ガチャリと扉が開けられた時、ピンと張られた糸が目に入った。新八を止めようにも銀時のところからでは間に合わない。
足元に謎の空間が生まれ、新八の身体がそちらへと傾いていく。
「えっ……?」
「新八ッ!!!」
必死に手を伸ばすも新八には届かない。
『新八くん!……新八ッ!!!!』
銀時の手を振り払って海が駆け出す。穴に落ちそうになった新八を廊下の方へと突き飛ばした。
「海さん!!」
新八の代わりに海が穴へと落ちる。一瞬だけ海と目が合う。
「海ッ……!」
もう少しで手が届く、という所で海は階下へと消えていった。
扉が閉まるのと同時に穴が塞がれてしまって海を追うことも出来ない。
「クソッ!!」
閉じた床を何度も叩くが二度と開くことは無い。
「ご、ごめんなさい……僕のせいで……」
「謝んのは後だ!下に行くぞ!」
下に落ちたのであれば一階にいるはず。早く見つけなければ。入口の監視カメラで自分たちは見られていたのだ。もしかしたら下で待ち構えているかもしれない。
銀時達は急いで階段を駆け下りて非常口扉を開け放つ。
「居ない……?」
「落ちたのならここに居るはずだろ!」
辺りを見渡しても海の姿はどこにも無い。
「まさか……」
ここで倒れていた海を誰かが連れ去って行ったのか。
「副長!もしかしたら……海くん地下まで落ちたんじゃ……」
地下へと続いている階段を見つめる山崎に土方は口元をひくりと引き攣らせる。
「アイツの死体なんざ俺は見つけたくねぇよ」
「お前それどういう意味だ」
土方の言い草にカチンときて、銀時は土方の胸ぐらを掴む。
「地下は……一番危ないんですよ。武器庫として使われていたから厳重になっていて……俺達も地下の調査は中途半端に終わらせてるんです」
だから何が起きるか分からない。そう言って山崎は階段から目を逸らす。
「お前らはここに残れ」
「銀さん、僕も一緒に──」
「俺が海を見つけてくるから。新八と神楽はここに残ってろ」
土方と山崎が行き渋る程の場所。それならば子供らを連れていくことは出来ない。
「万事屋」
「海は必ず見つけてくる」
どんな状態であっても必ず見つける。階段を下りながら銀時は奥歯を強く噛み締めた。
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