事件ファイル(1)後編
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「海、そこ右にあるから気をつけろよ?」
『うん』
足元を意識しつつ、海の方を見やる。ちゃんと銀時の言うことを聞いているため地雷を踏むことは無さそうだ。
「これなら大丈夫そうだな」
建物まではもう少し。あと数歩で砂利道は終わる。
「そもそも一般人がどうやってこんだけの地雷を集められんだよ」
入口のところから建物までの間に視認できた地雷の数は二十以上あった。何故かそのどれもがどこかしら見えている状態で埋められていたが。
「おちょくられてんのかこれ」
埋め方が下手くそなだけかと思っていた。でもこれだけ見えているのが多いとバカにされている気もする。これで引っ掛かろうものならお前の目は節穴だろうと。
「もう少しだから頑張れよ?」
『う、うん』
海の手を引いて玄関入口へとたどり着く。砂利の所からコンクリの足場へと一歩踏み出そうとした瞬間、グイッと後ろに手が引っ張られた。
「あ!?え?なに!?」
銀時の足はコンクリを踏むことなく地面へと戻る。慌てて真下を見て地雷が無いことに胸を撫でろして、手を引っ張った海の方を振り返った。
『ちゃんと見て』
「なに?何を?」
玄関をじっと見ている海の視線を目で追う。
「ちゃんとって言われてもなにが──」
銀時が足を下ろそうとした場所。そこには一本の透明な糸が張ってあった。それは柱の後ろへと続いており、陰になっている場所に何かが置いてある。
「嘘だろ……」
『危なかったね』
「お前……あれに気づいてたのか」
銀時たちの場所からは見えづらい位置に爆弾が設置されていた。糸を踏んだ瞬間起爆する物なのか、玄関入口を囲うようにその糸は張り巡らされている。
もし海が手を引いてくれなかったら銀時は爆弾に気づかずに糸を踏んでいた。
サーッと血の気が引くのを感じ、思わず海の手を強く握る。
『大丈夫。踏まなければ』
「海お前まさか記憶が……」
戻ったのか、という問いに海は困ったように笑う。
『ごめんね。まだ全部じゃないんだ。でもここの事は覚えてる』
「全部じゃないって……どこまでなら分かるんだよ」
『ここにいっぱい変なのがあったのは思い出したの。でも、なんでここに僕が行ったのかは分からない。それと……』
途中で海は言いづらそうに口ごもる。
「それとなに?」
『僕は銀時さんのこと……好きなんだね』
「……うん?うん!?」
『だから一人で行かせたくなかった。ここが危ない場所だって知ってるから。銀時さんが危ない目に遭うのは嫌だったんだ』
「え……あっ、そう」
ぶわわと顔が熱くなるのを感じて海から顔を逸らす。
中途半端に思い出してきているせいか、本人はその言葉の意味をよく理解していない。だから真っ直ぐ銀時に伝えてくる。
「(え?なに?言葉には出さないけどそう思ってるってこと?いつもそういう風に思ってくれてるってこと!?)」
素っ気ない態度で海はいつも銀時についてきてくれていた。だからいつも仕方なくついてきてくれているものだと思っていたのだ。それがまさか銀時を心配していてくれたとは。
『ねぇ、銀時さん』
「は、はい!?」
『さっき俺から離れないでって言ってたけど……』
海はそっと銀時の隣に立つ。繋いでいる手を握り直しながら、海は病院を見据える。
『俺から離れないで。ここはすごく……嫌な感じがするから』
ここに連れてきて正解だったかもしれない。
優しげだった目が徐々に鋭くなってきている。敵を目の前にした時に出るものだ。
「海が守ってくれんの?」
『うん。だから離れないでね?』
「そんな風に言われたら離れられないでしょうが」
守ると思っていたのに。それがいつの間にか逆転している。
「(なんだか嬉しいような悲しいような)」
好きな人は守りたい。それは銀時がそう思うように海も同じなのだ。でも、銀時は海より優位に立っていたい。彼が強いことは知っているけど。
「(男として、なんて言ったら蹴り飛ばされそうだけど)」
足元にある糸を慎重に切っている海の背中を見て苦笑いを浮かべる。このむず痒さはこれから一生晴れることはないだろう。
「ねぇねぇ海くん」
『なに?』
「俺も海のこと大好きだよ」
『へ?』
言われたのだから言い返さなくては。そう思って伝えた。海の顔はみるみる真っ赤に染まっていく。
『な、なに!?急に』
「そりゃ愛の告白?」
『そ、それ今言わなきゃダメだったの……?』
「今じゃなきゃダメでしたー」
いつもならここで蹴りが飛んでくるのだが、どれだけ待っても足が上がる気配は無い。なんだかそれを寂しく思ってしまう。
「さて、イチャイチャしてたいけど後ろから刀投げられそうだからお預けね」
新八と神楽の呆れた目の他にこちらをじっと睨んでいる目。今にも視線で殺されそうだ。
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