事件ファイル(1)中編
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翌日、銀時は真選組屯所に顔を出して近藤に海を廃病院に連れていく旨の話をした。
危険が伴う行動になるので最初は渋られたが、海の記憶が戻るのであればと了承を得た。内部の構造を熟知しているのは海と、調査書を作成した山崎の二人。
「何があるか分からねぇから山崎を同行させてくれ。海と一緒に病院内をうろうろしてたからある程度の仕掛けには慣れてるだろう」
「使えんの?あのあんパン野郎」
「普段はあんなだが、やる時はやる男だ……と思う」
屯所の庭で一人ミントンしている山崎を疑いの目で見る。いつもあんパンを齧っているか、ミントンしてるかの男。そんなやつを連れて行って足でまといにならないのか不安だ。
「俺らがかかる前にアイツが掛かりそうなんだけど」
「大丈夫だろ。海が掛からなきゃいいんだから」
はははっ、と笑う近藤に銀時は苦笑いを浮かべる。今の言い方はまるで山崎を囮にしろと言っているように聞こえるではないか。
「まあいいや。とりあえず借りてくわ」
伊敷山病院の見取り図と山崎を連れて局長室を出る。屯所の前で海と土方が話しているのが見えて思わず目が細くなった。
『あっ、銀時さん!』
「ん、たでーま」
『あれ?えっと……』
「ああ、こいつも連れていくから。あんパンくんね」
「違いますよ!!ええと、俺は山崎です。山崎退」
『山崎さん……?』
「はい!海くん、でいいかな?」
『うん。よろしくお願いします』
会釈する海に山崎は慌てて顔を上げるようにと声をかけた。それから二人は楽しげに話をし始める。
「おい。お前本当に連れていくつもりなのか」
「あ?まあな」
「海に何かあったら分かってんだろうな」
「分かってますけど?言われなくとも」
本当にこの男は警察なのかと言いたくなるほどの眼力で睨まれる。
「つかなんで山崎を選びやがった」
「あんたらの長が連れてけってよ。病院内に詳しいんだって?」
「詳しいんじゃねぇ。アイツは仕掛けに引っ掛かりやすいだけだ」
ああやっぱり。近藤はそのことを知っていて山崎を寄越したのだろうか。海が仕掛けに掛かってしまう前に山崎が見つけるだろうと踏んで。
「行くなら一階までにしろ。上階と地下には行くな」
「あー、さっき見取り図見たわ。なにあれ。もしかしてアレ全部海が見つけたの?」
「半数はな」
見取り図の至る所に仕掛けの内容が書かれていた。それはとても分かりやすい。海の真面目さが伺い知れる丁寧さだ。
「今から行くのか」
「そうだけど?」
「なら俺も──」
土方が何かを言いかけた時、山崎と話していた海が不意にこちらを振り返った。
『銀時さん』
「うん?どうした?」
『そこ、離れて』
「え?」
怯えの混じった顔をしている海に首を傾げつつ、言われた通り土方と共にその場を離れる。
「何かあった?」
海はじっと屯所の門を見つめる。銀時もそちらを見てみたが、そこには何も無い。
「海?」
『……なんでもない、です』
そう言って海は銀時の背へと回る。それは身を隠しているように見えた。
「もしかして誰かいた?」
『え……銀時さんも分かったの?』
「あ、いや……なんとなく?」
期待に満ちた目で見られ、まさか何も気づいていなかったとは言えず曖昧な言葉を返す。それでも海は少し嬉しそうな顔で銀時の羽織をギュッと両手で掴む。
「(記憶はなくとも身体は覚えてるってことね)」
人の気配を敏感に感じ取っていた海の能力は記憶を失っても健在らしい。
そして海がこれだけ怯えていたということは、銀時たちの後ろから戸坂が様子を伺っていたのかもしれない。
「おい、マヨラー」
「あ?」
「お前この後暇?」
山崎だけでは心配だ。きっと戸坂はついてくるだろうから。
「ちょっと多串くんもついてきてくんない?」
「誰が多串だッ!!」
「つべこべ言ってないで来いよ」
一々突っかかってくる土方を雑にあしらいながら病院へと歩き出す。道中、海は辺りをキョロキョロ見回して警戒していた。
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