事件ファイル(1)中編
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「はあ!?逃げられただ!?」
「す、すみません!すみません!すぐに探しに行ったんですけど、逃げ足が早くて……」
「逃げ足早くてじゃねぇよ!!」
頭の傷を手当してもらったあと、銀時たちは万事屋へと帰ってきていた。そこで聞かされた話はなんとも許し難いもの。
指名手配にした戸坂を取り逃したというものだ。海の見舞いに来たあの日から戸坂は屯所に帰らずそのまま行方不明になった。山崎が江戸中を探し回ったけど見つからないまま。
「じゃあ今日のアレはあの戸坂ってやつの仕業か」
「狙撃位置が判明したので今調査中です……」
銀時に一喝されて山崎は怯えながら答える。その反応ですら銀時の怒りを増幅するだけだった。
「あの、その戸坂さんって方はなんで海さんを?」
「それが分からねぇんだ。戸坂は海の事を慕ってやがった。それが今ではこれだ」
海を狙う理由が全く分からない。父親が世話になったからと頭を下げていたやつが何故、恩人の命を狙うようになったのか。
「その戸坂ってやつ誰アルか!そいつぶっ潰せば海元に戻るアルか!?」
「神楽ちゃん落ち着いて。その人を倒しても海さんの記憶は多分戻らないよ」
「なんでヨ。そいつが悪いんじゃないのか」
「そうなんだけど……」
落ち込む子供らに土方たちは気まずそうに顔を逸らす。
『神楽ちゃん、新八くんどうしたの?』
「海!起きたアルか」
病室で狙撃されたあと海はショックで気絶してしまった。休ませるために寝室に寝かしておいたのだが、どうやら話し声で目が覚めてしまったらしい。
『うん。みんなどうしたの?怖い顔してる』
「なんでもないですよ!えっと……きょ、今日の夕飯は何にしようかって言い合ってたら喧嘩しちゃっただけなんです」
「新八、それはちょっと無理があるんじゃねぇ?」
「え゙っ、じゃ、じゃあ銀さんが説明してくださいよ!」
勝手に説明したのは新八だというのに丸投げされ、銀時は面倒くさそうに頭をガシガシとかく。
「夕飯なに食いたい?」
『ご飯?んー……オムライス!』
「ここんとこオムライスしか食ってないけど!?そんなにあれ美味しい!?」
土方がオムライスを買ってきた日からというものの、海は三食のうち一食は絶対にオムライスを選んでいる。そろそろコレステロールが心配になってくる程に。
「今日の晩飯は違うものを選びなさい」
『やだ』
ぷいっとむくれた顔でそっぽ向かれる。
「何がいいのよ……あんなのただのケチャップライスと卵でしょうが」
『わかんない。でも、あれがいい』
「わかんないって、好きで食ってんじゃないの?」
『美味しいけど……でも、なんか違うの。もっと……』
「もっと?」
『もっと卵がトロトロしてるやつがいい。でもみんな固くて』
「卵がトロトロってそれは俺が──」
銀時がいつも作るやつはトロトロのオムライス。それは以前、海に頼まれて作ったものだ。丁度いい半熟加減だと喜んでいたのを思い出して銀時は納得した。
「(ああ、あれじゃなきゃ嫌ってことね。そりゃどこにも無いわけだわ)」
市販品ではあのオムライスは手に入らない。海は見つかるはずもないものを探し続けているのだ。
「今日の晩飯までだからな」
『え?』
「オムライス。明日から別のもん食え。栄養が偏るでしょうが」
山崎に材料の調達を頼み、海を子供らと共に寝室へと戻す。
「話戻すぞ。確かそいつには妹がいるって言ってたよな」
「ああ。そっちも探してはいるが……兄妹共々行方不明だ」
兄が妹を連れて逃げたのか、それとも二人は共犯関係だったのか。
「親とかは居ねぇのか?親父が世話になってんだろ?」
「確認は取った。だが……」
言葉を切った土方は渋い表情。
「"海のことは知らねぇ"だとよ」
「は?」
海を知らない?世話になったと言っているのに?
誰かと間違えているのではないかと土方は何度も聞いたそうだが、戸坂の父は知らないと言い続けたそうだ。
「それと、その時に聞いたことだが、戸坂兄妹は養子だそうだ。迎え入れてからは子供との会話はほとんどなく、戸坂兄が二十歳を越えた頃に妹を連れて家を出たそうだ」
「なんだよそれ……」
戸坂の言っていた"父親"は一体誰のことを指しているのか。養子に出されたということは何処かに実父がいるということだ。そちらの父親が海に世話になったということになる。そもそも世話になったというのはどういう意味を示すのか。
海の命を狙っているということは、良い意味で世話になったわけではないだろう。
「ここ数年で海が捕まえた野郎の中に子持ちのやつは居んのか」
「二人ほどいる。一人は窃盗の罪で投獄されたのち釈放された。もう一人は近々処刑予定の男だ」
「処刑?随分と悪さをしたもんじゃねぇか」
「攘夷浪士の支援をしていたヤツだからな。当然といえば当然だ」
「攘夷浪士の支援?それってもしかして、あの病院の……」
「院長である伊敷山藤三郎。そいつが二人目だ」
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