風邪の日(土方ver)
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上着を虚ろな目で見たかと思ったら次の瞬間、嬉しそうに笑みを浮かべながら抱きしめた時はどうしてやろうかこいつと思った。
潤んだ瞳で普段呼ばれない下の名前で俺を呼び、行かないでなんて言われれば誰だってそばにいたくなるだろう。弱っているからとはいえ、普段の何倍も素直になっている海に思わず口角が上がってしまう。
普段は万事屋に向けられているのであろうあの目が。縋るように助けを求めてくる海の目が今は自分に向けられているのだと思うと嬉しくて仕方がない。
今この瞬間はあいつに勝っているのだと思ってしまう。
「すぐ戻る。その間に寝てても構わねぇよ」
『はやく……な』
「あぁ。待ってろ」
こんな状態の海を置いて自室に戻らなければいけないなんて苦しいにも程がある。後ろ髪引かれる思いで俺は海の部屋から出た。
自分の部屋に急いで戻り、海の部屋から運び出した書類を手に取る。それらを手にしてからまた再び海の部屋へと行く。
「大丈夫か?」
『十四郎……』
「まだ泣いてんのか」
静かに襖を閉め、持ってきた書類を机の上に置いてから海へと手を伸ばす。未だに流れている涙を指先で拭い、赤く熱い頬に触れれば猫のように擦り寄ってくる海。
道すがらに手ぬぐいを濡らしてきたので、それを海の額に乗せる。
その冷たさが気持ちいいのだろうか、ふっと息を吐いて緩く微笑んでいた。
「なんか欲しいもんでもあるか?」
『大丈夫……』
ゆっくりと目を閉じていくのを見つめる。海の右手には己の右手が繋がれているのだが、力の入らない手で握られた手はすんなりと離れてしまった。
やっと落ち着いたのかゆっくりと寝息を立て始めた海に安堵しつつ、俺は書類へと目を向けた。
とりあえずこれを終わらせておかなければまたこいつが無理をするだろう。
海が起きた時にすぐに自分が視界に入るようにと、真横で書類に筆を落とす。
黙々と作業をし始めてから3時間ほどで手持ちの書類は全て書き終えた。
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