事件ファイル(1)中編
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「やっと退院出来るアルな!」
「もう足は大丈夫なんですか?」
「多分大丈夫じゃね?」
今はもう両足でしっかりと立てた。痛みは残っているし、まだぎこちなさもある。だが、もう寝たきりでいなければいけないということでもなかった。医者からはそろそろリハビリをし始めてもいいだろうと言われていたのだ。
「海、着替えられたか?」
『ん、んん……大丈夫、です!』
一人で着替えられると言うからやらせたのだが、なんだか不格好な状態になっている。本人はやり切った顔をしているけど、これでは外に連れて行けない。
「こっちおいで」
手招きして呼び寄せると、海はひょこひょこと銀時のところへと来る。記憶を失った日から比べて随分と懐いてくれたものだ。
「銀ちゃん、海ウチに来るアルか?」
「向こうが落ち着くまではな」
「そしたらお布団干しておいた方がいいですね。僕、先に万事屋に行ってますね」
「おう。頼む」
着物を直しつつ新八に手をヒラヒラと振った。彼は何かと気づいてくれるからとても助かる。
暫くは万事屋で寝泊まりするというのに銀時は海の布団のことをまったく気にしていなかった。自分の布団に入れてしまえばいいと思っていたから。
よくよく考えれば、記憶のない海と共に寝るのはなんだかいけないことをしているような気分だ。新八が気づいてくれて本当によかった。
「よし。これで大丈夫」
ズレていた着物を直してやれば、海は嬉しそうにその場でくるりと回る。何がそんなに嬉しいのか分からないが、本人が喜んでいるのならなんでもいいかと微笑む。
「さて、そろそろ行くか」
「ぱーっと退院祝いしようヨ!」
「そんな余裕あるわけねぇだろうが」
荷物を持って病室の扉を開ける。海に声をかけようと振り返った刹那、窓の向こうでキラッと何かが光るのが見えた。
それと同時に窓が割れ、銀時のすぐ真横を何かが通り抜けていく。
「海ッ!!伏せろ!!」
『えっ──』
荷物を放り投げて海を庇うように抱きしめて床に転がる。
「銀ちゃん!」
「中に入るな!!」
窓が割れて銀時にガラスが降りかかる。下にいる海を見れば、真っ青な顔で銀時を見ていた。
『銀……時、さ……』
「大丈夫だから」
暫く隠れていると廊下の方が騒がしくなってきた。バタバタと誰かがこちらに走ってきている。
「万事屋ッ!!」
「大丈夫ですか!?」
病室に転がり込むように入ってきたのは土方と監察の山崎。中の惨状を見た二人は瞠目して固まる。
「なんだ……これ」
「固まってんじゃねぇ!海を先に出せ!」
銀時の声でハッと我に返った土方が身を低くしながら海に手を伸ばす。そちらへと海の背中を押すが、恐怖で動けなくなってしまったのか土方の元へと行こうとしない。
「海、もう大丈夫だから。な?」
『ぎ、んときさ……頭……』
「うん?頭?」
ボロボロ泣きながら銀時の頭へと手を伸ばす。その手にはべっとりと血が付いていた。
「ガラスで切っちゃっただけだよ。撃たれたわけじゃねぇから」
『僕のせい……?』
「違う。海は何も悪くねぇよ」
頭を撫でて落ち着かせ、土方の手を握らせる。
「まだ動くな」
撃たれなくなったとはいえ、相手はまだこちらを狙っているかもしれない。
海を安全に病室から出すには相手の目を隠さなければ。ベッドに置いてある布団を手繰り寄せてた。
「行け!!」
土方が海の手を引くのと同時に銀時は布団を広げた。舞っている布団に何発も撃ち込まれて冷や汗が垂れる。
「おいおい……冗談じゃねぇよ」
もう大丈夫だと思っていた。犯人が見つかったのだから海はもう安全だと。
それが思い違いだと気づき、銀時はギリッと奥歯を噛み締めた。
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