事件ファイル(1)中編
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それから数日後、銀時は漸く歩けるようになった。医者からはもう少し入院していた方が良いと言われたが、明日には退院すると告げた。
そんな昼下がり。土方たちが海の昼食を持ってきた時に起きた。
「初めまして。真選組隊士の
「誰コイツ」
人の良さそうな笑顔を浮かべる戸坂を指さして近藤に問う。
「最近入った隊士だ。戸坂は海に恩があるらしくて、どうしても見舞いに行きたいって言うから連れてきちまった」
「ふうん?」
ご飯を食べている海の事を甲斐甲斐しく世話をしている戸坂をチラリと見る。
最近入った隊士で、海に恩がある人物。それは朔夜が言っていたやつと酷似する。きっと彼がその人物なのだろう。
「大丈夫ですか?海さん」
『う、うん』
初めて見る相手だからか海は戸坂と目を合わせようとしない。それどころか、どこか怯えているようにも見える。
「ああ、これ切り分けた方がいいかもしれませんね」
食べづらいだろうと、戸坂は海が持っていた皿にあるハンバーグへとナイフを突き刺す。
その瞬間、海の身体がビクリと大きく跳ねた。
『やっ……!』
持っていた皿を戸坂へと投げつけ、海は銀時の後ろへと身を隠す。
「どうしたんだ海!」
「おい戸坂!てめえ何しやがった」
「えっ、いやハンバーグを切り分けてあげようと思ったんですけど……」
投げつけられた物を拾う戸坂は困惑の色。そして自分の後ろに居る海は戸坂の目から逃げるように身を縮こませている。
「海、どうしたの?」
『あの人……やだ』
「やだ?」
ボソリと呟いた声は銀時だけが拾ったらしく、土方たちはこちらを気にしていなかった。
「海さん、どうしたんですか?」
『あ……あのね、総悟くんあの人──』
「すみません!俺が余計なことしちゃったみたいで」
ははは、と笑う戸坂に土方と総悟は呆れた顔。だが、近藤だけは眉間にシワを寄せて見ていた。
「俺、代わりのご飯買ってきますね!」
床にぶちまけられたハンバーグを片付けてから戸坂はそそくさと出ていった。
『僕、いらない』
「え?」
『"あの人のご飯"いらないっ!』
やだやだと狂ったように海は泣き叫ぶ。そんな状態に土方たちは唖然。
落ち着かせようと海を抱きしめるも、暴れる力が強くて手を解かれてしまう。
「海!大丈夫だから、大丈夫だから落ち着けって!」
『やだ!僕やだ!』
「海……!」
「トシ、総悟。戸坂を屯所に帰してくれ」
「近藤さん?どういう意味だそりゃあ」
「そのまんまの意味だ。海の状態を見りゃ分かるだろう」
明らかに海は戸坂を嫌がっている。別に戸坂が海に対して何かをしたわけではない。でも、これだけ拒むには何か理由がある。
『や、だ……僕あの人嫌い!』
「いないよ。もうここには居ねぇから」
段々と落ち着いてきたのか、海は銀時にしがみついてボロボロと涙を零す。
「これはもう確実だろ」
「そうだな……」
「近藤さん、どういうことだこれは」
「海に薬をもったのは戸坂だろう」
「アイツが!?」
「それは本当ですかい?」
「ここまで海が拒否してんだ。確固たる証拠だろうよ」
直接的な言葉はなくとも、部分的な言葉だけで戸坂が海に何をしたのかが分かってしまう。
海は戸坂に食糧を貰った。落ちていたおにぎりか、それとも飲み物の方に薬を混ぜられていたのだろう。その記憶が奥底にあったのか、海は無意識で戸坂の事を嫌がった。
海と戸坂を会わせるべきじゃない。
「あの戸坂ってやつを二度とここに連れてくるな」
「ああ。アイツは取り調べに掛ける」
「そうしてくれ。素直に吐くとは思わねぇが……」
記憶を失ったと聞いて会いに来るくらい図太い男なのだ。たかが取り調べで全て話すとは思わない。それに記憶のない海の譫言のような言葉にどれ程の効力があるかも謎だ。
相手が誤解だと言い逃れしてしまったらそれまで。物的証拠がない限りは戸坂を拘留することも出来ない。
「旦那、決定的証拠が出やしたよ」
そう言って総悟は銀時に携帯の画面を見せる。そこには指紋検出という文字と"戸坂 実穂"という名前。
「戸坂を指名手配しろ!」
「へい!」
土方の一声で総悟は携帯を閉じて病室を飛び出していく。
「まさか戸坂の野郎が……」
「人は見た目によらないってこった」
悔しそうに呟いた土方に慰めのように声をかけたが、本人は銀時の気持ちなど露知らず睨むばかりだった。
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