事件ファイル(1)中編
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「美味しいですか?それ」
『うん。すっごく美味しい』
「だそうですよ。良かったじゃないですか土方さん」
「まずいなんて言うもんなら斬ってるところだ」
土方が買ってきたオムライスを頬張る海を眺める。
近藤は土方たちと入れ違いになるようにして屯所へと帰って行った。戻り次第、隊士らの動向を探ると言って。
「それそんなに美味いの?」
『ん、んん、んっ』(食べてみますか?)
「俺はさっき飯食ったからいーよ。それはお前が食べなさい」
海の口の端に付いていたケチャップを指で掬って舐める。首を傾げている海に微笑むと、嬉しそうな表情を返された。
「それで、お前はどうするつもりなんだ」
「どうするもこうするもねぇ……」
一日二日では足の怪我は治らない。医者からは尋常ではない治癒力だとほめられたが、それでもまだ足の痛みは酷く、立ち上がるのは無理だ。
こんな状態では犯人探しどころか、海のことを守るのも難しい。
「旦那、やっぱ海さんはウチに連れていった方がいいんじゃ?」
彼らは完全に疑いが晴れたと思っている。近藤から土方たちには言うなと口止めをされているので、二人に話すことは出来ない。
「海、こいつらと一緒に行きたい?」
だからこれは海に賭けるしかない。
『総悟くんとマヨラーさんと?』
「ちょっと待て。なんでこいつは名前呼びなのに俺はマヨラーなんだッ!」
「いいじゃないですかマヨラーさん。似合ってやすよ、マヨラーさん」
「ちょっと怒鳴んないでくんない?マヨラーさん」
「てめぇら表出ろや!!今すぐ斬ってやるから!!!」
キレた土方が刀を抜こうと柄を掴む。総悟がのんびりとした態度で宥めようとした。
「土方さんここ病院なんで。そんなもんプラプラ振り回さないでください」
「ああ!?元はと言えばてめぇが──」
『騒がしい』
ボソッと聞こえた言葉に皆が振り向く。一身にその視線を受けた海はきょとんとした顔。
「海、今の……」
『今の?なに?』
「海さん、今"騒がしい"って言いやせんでしたか?」
『うん?ううん』
たった一瞬、いつもの海の声が聞こえた。それは幻のように掻き消えてしまったけれど、確かに海の声だった。
『僕、なにかしちゃったの……?』
不安げに銀時を見上げる瞳は今にも泣きそうだ。
「なんもしてねぇよ。海が可愛くて見ちゃっただけだから心配すんな」
わしゃっと乱暴に頭を撫でてやれば、子供のようにはしゃぐ。その間、銀時たちはなんとも言えない表情で海の事を見ていた。
「海もう一回聞くけど、あのお兄さんたちについていく?」
『銀時さんは?』
「俺はここに残るよ」
『なら僕もここにいる』
「だってさ」
内心ではガッツポーズをしたいくらいだ。海は土方たちではなく銀時を選んだ。記憶を無くして一番最初に話したのが銀時だったからというのもあるんだろうけど。
「いいんですかい?こんなちゃらんぽらんで」
『ちゃらん……?』
「おい、本人がここに残るって言ってんだからぶつくさ文句言ってんじゃねぇよ。男の嫉妬は醜いぞ?」
「何かあった時てめぇじゃ海を守りきれねぇ」
「あ?入院中はお前らの保護下にあるんだろう。怪我が治れば問題ねぇよ」
足さえ治ればどうってことは無い。何があっても海は守り抜く。必ず。
「これは何を言っても無駄みたいですよ土方さん」
にやっと笑う総悟に土方は舌打ちを漏らす。
「コイツに怪我でもさせてみろ。お前の首はないと思え」
「へーへー。怖い上司だことで」
それだけ残して土方は病室を出ようと出口へと向かう。その背中に海が慌てて声をかけた。
『マヨ……えっと……』
「土方十四郎だ」
『土方さん!』
「な、なんだ」
『ご飯、美味しかったです。ありがとうございます!』
ぺこりと頭を下げる海に土方は目を見開いたあと照れたように頭をガシガシと掻く。
「次、何食いたいんだ」
『え?』
「明日も飯いんだろうが。その……買ってきてやるから」
『あっ……えっと、そしたら……ハンバーグが食べたいです!』
「子供みてぇなもんばっかじゃねぇか」
そう言いつつも土方は何処か嬉しそうにはにかむ。その顔をジト目で見ていたことがバレ、土方はわざとらしく咳払いをして病室を出ていった。
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