事件ファイル(1)中編
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夕方頃に新八たちが帰り、そのあと夕飯だと看護師が食事を持ってきた。
それをちょこちょこ食べていたとき、布団が動いた気がして手を止める。
「起きたか?」
声をかけてみるも返事は無い。もしかして話せないほど頭痛が酷くなってしまったのかと、銀時は心配しながら布団を捲った。
「辛いなら医者呼ぶか?」
『え……』
見えた顔は困惑。銀時を見た海は何故か戸惑っている。
「どうした?」
『えっと……』
「海?」
『あの……どなた、ですか』
「は?」
困り果てている顔で聞かれて銀時は呆気にとられる。
「何言ってんの?寝すぎて頭おかしくなったか?」
まさか熱が上がりすぎてわけわかんないことになってしまっているのか。そう思って海の額へと手を伸ばしたが空を切る。海が銀時の手から逃げだのだ。
「え?なに?」
『ご、ごめんなさい……』
「いや……待て待て待て待て!?なんの冗談!?まさかさっきの話まだ根に持ってんの!?」
それでこんなイタズラをしているのか。確かに先程は海の事を悪く言いすぎた気もするが、だからといってここまでしなくてもいいと思う。
「悪かったって!別に何も出来ないわけじゃねぇよ!むしろ出来すぎてて怖えくらいなんだよ!」
吠える銀時に海は萎縮して身を縮こませる。その姿に益々訳が分からなくなってきた。
「謝ってんのにまだ気に食わねぇの!?そんな記憶喪失のフリをする程のこと!?」
『あ、あの、僕何かしましたか……』
「してるけど!今めっちゃしてますけど!?」
もういい加減にしてくれ。言いすぎたことは反省しているから普通に話してくれと懇願するように言う銀時に海はそれでも怯えた顔をしていた。
『ごめんなさい……!』
「いや、海が謝らなくても……つか、お前……え?なんなの?それ作ってるんじゃないの?」
謝り続ける海は少し変だ。まるで子供の頃のようにひたすら謝り続けている。いつもなら言い返してくるのに。
「海……あのー……俺の事わかってる?」
『誰……ですか?』
「…………えっ」
嘘偽りない顔。不思議そうな表情で海はじっと銀時を見つめている。
「寝て起きたら全てリセットってどういうこと!?」
銀時の叫びにビクッと身体を震わせて布団に包まる。これでは銀時が海を虐めているように見えてしまう。
「じ、自分のことは分かるよな……?」
そろりと布団を持ち上げるとおすおずといった感じに海は顔を出す。自分の名前はわかるかと問いかけたが、海は首を横に振って分からないと返してきた。
「どういう状況よこれ……」
迷った結果、銀時はナースコールを押して看護師を呼び出す。駆けつけてきた看護師に状況を説明すると、困惑気味に医者を連れてきてくれた。
「桜樹さん、ご自身のお名前は分かりますか?」
医者の言葉に困った顔で海は銀時を見る。
「自分の名前覚えてるか?」
『名前……?』
先程銀時が聞いた時と同じように分からないと呟く海に医者は渋い表情。
「坂田さん、何があったんですか?昨日はこんな事ありませんでしたよね?火傷の手当をした時は正常でしたよ」
「俺にも分かんねぇんだよ。昼に一度起きた時はちゃんと記憶はあったし……そのあとは──」
頭が痛いと言って寝てしまった。風邪だと思ってそのまま寝かせていたから異常は無かったはず。
「風邪の症状で記憶が無くなるようなことはありませんので……他に要因がありそうですね。明日、脳神経外科の先生と話をしてみましょう」
精密検査の予約を明日の午前中に入れておくと医者は言って病室を出ていく。
海はそわそわしながら医者を見送り、そして銀時の方をちらりと見る。
『僕……なに?』
「なに?あ、名前?」
『うん』
「なんか可愛いな……ごほん。お前は桜樹 海。言えるか?」
『桜樹……海?』
「そ。んで、俺は坂田銀時。お前の……小さい頃からの友達だよ」
恋人だと言ったら更に困らせることになる。今はとりあえず友人だと言っておけば良いだろう。
『坂田銀時……さん』
「銀時でいいから」
『銀時、さん』
「さんもいらねぇけど……まあいいか」
よく出来ましたと頭を撫でてると海は嬉しそうにはにかむ。
「あー……どう説明すっかな」
明日にはまた土方たちが来る予定だ。その時に海の状態をどう説明すべきか。
記憶が無くなった理由はハッキリとは分からない。でも、何となくだが見当はついている。
「(俺に盛られた薬と同じもん使われてそうだなこりゃ)」
もしかしたら相手は数時間の記憶を飛ばすつもりだったのかもしれない。その間の記憶が無くなっていれば、誰が海に食料を渡したのか分からなくなるからだ。
それがまさか全ての記憶を無くすことになるなんて。
薬を盛った人間からしたらこんな好都合なことは無い。このまま海の記憶が戻らなければ、犯人は捕まらない。
全ての答えに一番早くたどり着きそうな海がこの状態なのだ。この件は長引く可能性が高くなった。
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