事件ファイル(1)中編
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土方たちが帰ったあとすぐ、今度は新八たちが顔を出してきた。
「銀ちゃんいつ退院できるアルか」
「さあな。つかお前それ普通に食ってるけど見舞い品じゃねぇの?」
「早く食べないと腐っちゃうヨ」
お妙が持ってきた果物を貪り食べる神楽を呆れた顔で見つつ、銀時は朔夜の方へと目を向けた。
「朔夜、お前いつも海に引っ付いてるよな」
「なんですかその言い方。金魚のフンみたいな言い方しないでくださいよ」
「フンでもカモの子でも変わらねぇだろうが。最近、海にやたら話しかけてたやつとか居たか?」
「兄さんに?」
「ああ。あのマヨラーとかの他に」
「兄さんは色んな人と話すから……あ……!」
屯所での事を思い出そうと頭を捻っていた朔夜は顔を上げ、そういえばと話し始めた。
「一ヶ月くらい前に近藤さんが新しい隊士を入れたんだ」
「新しい隊士?」
「うん。人手不足だからって。その中の一人が兄さんによく声掛けてたかも」
「誰だそれ」
「えっと名前までは分かんないけど……なんかすごい人みたいだよ。手合わせで何人も負かしたって」
それは本当に一般人なのかと聞きたい。以前、桂が真選組を内側から瓦解させるんだといって乗り込んだことがあった。海以外誰にもバレずにあの男は隊士として真選組に居座っていたのだ。
「それヅラじゃねぇの?」
「ヅラ?誰それ」
「いやこっちの話。で?そいつはなんで海に話しかけてんの?」
「んー、確か……お父さんがお世話になったとかって言ってたかなぁ。お礼を言ってて……それからよく兄さんと話するようになったみたい」
海に父親を助けてもらったことで真選組に入隊した。それは有り得なくもない。憧れの人を目標にすることはよくある事だから。
「他は?そいつだけ?」
「うーん……話してる人……話してる人」
それから朔夜は暫く考えこんでみたけど他に思い当たる人はいないのか分からないと一言。
「でもなんでそんなことを?」
「昨日、見張りをしてた海に話しかけてきたやつがいたんだよ。あんな時間にマヨラーたちが来るわけねぇし、かといって海の知り合いなんか限られるしよ」
見張りといえども仕事中には変わらない。そんな時に知り合いを呼ぶような怠惰な子では無い。中に自分が居るのだから話しかけてくればいいものをと思ったくらいだ。
「昨日の夜……多分、その人屯所出てるかも」
「出てるだ?いつ!」
「時間までは分からないけど……土方さんから聞いてます?今、捕まえた攘夷浪士の残党を追ってるって話」
「いやなんも」
「それで僕たち夜間も見廻りに出てるんだけど、昨日はその人が担当だったみたい。帰ってきた時、相方の人と揉めてたけど」
「揉めてたってなにを」
「そこまでは……」
その男は夜間の見廻りに出ていた。そして海によく話しかけていたという。
「(あとは海が起きてからだな)」
そうすれば誰が海にあの食料を渡したのかわかる。今の時点では朔夜の言う男が怪しいが。
「ところで、なんで兄さんベッドで寝てるんですか」
「あ?夜中ずっと起きてたんだから寝かせてんだよ」
「徹夜してても兄さんいつも起きてるのに」
「俺が起こしておくわけねぇだろうが」
むうと顔を膨れさせて拗ねる朔夜に新八は苦笑いを浮かべる。
「海さんとお話したかったんだよね朔夜くん」
「べ、別にそういうわけじゃないけど!……そりゃ最近忙しくてあまり話せなかったけどさ……」
「おいおい、お前まだ兄離れ出来てないの?乳くせぇガキのまんまじゃねぇか」
「なっ!坂田さんこそ兄さんにべったりじゃんか!何かあれば兄さんばっか頼って!」
「お前とは違うの。俺は海の恋人だから甘えられんの」
「なにそれ。結局は兄さんがいないと何も出来ないってことじゃないですか」
「はあ!?違うけど!?むしろ逆じゃねぇの!?」
『その逆の意味が聞きたいんだが?』
もぞりと動き出した海はじとっとした目で銀時を見やる。
「えっ、いや、えっと……」
『誰が何も出来ないって?』
「そ、そんなこと言ってねぇよ……多分?」
まさか話を聞かれていたなんて露知らず、どうにかして誤魔化そうと言葉を選んでいる銀時の視界の端で海は顔を歪めて頭を抱えた。
「兄さん?大丈夫?」
『ああ……少し……』
「おい、大丈夫か?」
こめかみに手を当てて目を固く閉じる。頭痛が酷いのかそれ以上起き上がれず、海はまたベッドに横になってしまった。
「本当に大丈夫かよ。看護師呼ぶか?」
『そこまでじゃ……ない』
そう言ったきり眠ってしまったのか静かになった。
「海さん無理してたのかな」
「あらあら……良くなればいいけれど」
「ずっと忙しかったから。兄さんと土方さんはよく見廻り出てたし」
「少しは休むってことを覚えろよアホ」
額に手を添えると普段よりも熱い。仕事の忙しさと昨晩の行為が相まって風邪をひいてしまっただろう。今はゆっくりと休ませよう。
布団を首元まで掛けて背中を撫でる。小さく唸りながら海は銀時の手を掴む。
「どこにも行かねぇから安心して寝なさい」
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