事件ファイル(1)前編
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『見張る、といっても暇だな……』
土方たちが帰ってから三時間ほど。ただ椅子に座って誰もいない廊下を眺めていることしかしていない。
最初のうちは犯人について考えていたのだが、段々と混乱してきたためやめた。
『土方たちを帰す前にコンビニに行ってくれば良かったな』
ぐう、と腹の虫が先程から忙しなく鳴いている。ずっと病室の前で見張っているから夕飯が食べれない。自分一人しかいないから動くに動けなかった。
『土方に頼んで……いや、文句言われそうだな』
自分で残ると決めたのだ。ここで土方を頼ったら怒られそうな気がする。朔夜は新八の家を見張っているから動けないし、山崎は調べ物で屯所を離れているから呼び出すのは困難だ。
『しくった。朝までもてばいいけど』
お腹が空きすぎて、いざという時に動けませんでしたじゃ笑えない。
『まあどうにかなるだろ』
朝まで持ちこたえればいい。そうすれば新八たちが来るはず。明日もお見舞いに来ると言っていたから。
それまでどうやって時間を潰そうかと壁に寄り掛る。
天井を見上げて蛍光灯を眺めていたら足音が聞こえてきた。それは看護師の靴ではなく硬い音。咄嗟に刀を手に取って廊下の方を見る。
「あ!副長補佐!」
『……誰だ』
「やっと見つけたぁ。探しましたよ」
ガサガサと物音をたてながらこちらへとやって来る人物。そいつは真選組の隊服を着た男。最近入ってきた新入りの一人。確か原田の部隊の者だ。
仲間だと気づいて身体から一気に力が抜ける。警戒するのも疲れるものだ。
「お疲れ様です副長補佐」
『お疲れ様。どうしたんだ?』
「副長に頼まれたんですよ。副長補佐がここで仕事してるから差し入れしてこいって」
『土方が?』
隊士から渡されたのはコンビニの袋。中身を見てみると飲み物と食べ物が入っていた。
「副長補佐ってこんなに食べるんですか?これ凄く重かったんですけど」
そりゃそうだ。中には数十個のおにぎりとパンが入っているのだから。コンビニにあったおにぎりを全て買い占めたのかというくらい入っている。
『いくらなんでも買いすぎだろこれ……しかも土方の煙草まで入ってんじゃねぇか』
自分のものもついでに買って袋に入れたまま忘れてしまったのだろう。袋から煙草だけ取り出してそれを隊士へと渡す。
『屯所に帰ったら渡しといてくれ。きっと今頃イライラしてると思うから』
「了解です」
『わざわざこんな時間に悪かったな。助かる』
「いえ、これも仕事なんで大丈夫ですよ!」
朗らかな笑みを浮かべる隊士に海は申し訳なさそうに眉を下げる。
「じゃあ俺は帰りますね」
『気をつけてな』
隊士の姿が見えなくなるまで見送ってからおにぎりに手を伸ばす。
『いや、マジで助かった。あとで土方に礼言っておくか』
これでお腹は満たされる。何があっても万全な状態で動けるというものだ。
黙々とおにぎりを食べ進めたところで、ふと海は手を止めた。
『そういやあの煙草……土方がいつも吸ってる銘柄じゃなかったような』
煙草の銘柄についてはあまり詳しくは無い。でも、土方からよくお使いを頼まれて煙草を買いに行くことがしばしばあった。そのせいで土方が吸っている煙草の銘柄を覚えているのだが、先程見たやつはいつものと違うやつ。
『変えたのか?でも先週はいつものやつだったよな』
小さな疑問が段々と膨れ上がる。最終的には本当にこれは土方が買ったものなのかと怪しくなってきた。
『先に土方に連絡を…………っ!?』
胸元から携帯を取り出そうとした瞬間、ドクンッと心臓が強く脈打つ。そしてじわじわと身体の中心が熱くなってきた。
『な、んだこれ……』
ムズムズとした感覚が身体中に広がっていく。少し動くだけでも口からあられもない声が出そうになる。
『はっ……なん……んっ』
熱くて堪らない。この熱をどうにかしたい。それしか考えられない。
トイレに行きたい。そう思って立ち上がろうとするも身体に力が入らず椅子に倒れ込む。置いてあったペットボトルが床に落ちて転がっていくのを海はぼうっとした目で見ていた。
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