事件ファイル(1)前編
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「それで?仕掛けってなんなんだ」
看護師に連れていかれる海を見送ったあと銀時は残った二人に声をかける。
「そのまんまの意味だ。あの病院には攘夷浪士どもを守るための仕掛けが施されてた」
「当時、あの病院を経営していた院長は元カラクリ技師だったんです。その時の知識を活かして病院内に無数の仕掛けを作った。人を驚かすだけの物から、殺せる物まで」
「それに海は掛かったっていうのか」
「ええ。でもおかしいですね。ある程度の物は撤去したはずですけど」
「残ってたやつがあったんだろ」
土方と総悟の話を聞きながら銀時は自分が病院に行った時のことを思い出す。
女に小包を渡され、指定された時刻に病院の屋上へ持って行って欲しいという依頼。銀時が病院に入った時はそんな仕掛けなんて全くなかった。屋上に上がるために階段を探して院内をフラフラしていたのにも関わらず。
確か先程、海に時間帯を聞かれた。大体の時間は覚えている。約束は十八時前後。その少し前に銀時は中へと入った。
仕掛けが作動する時間。海はそう言っていた。
「おい、その仕掛けってのは時間で決められてんのか」
「ええ。十八時です。一般外来が閉まる時間に」
銀時が入った時間だ。あの時、自分は様々な罠が張り巡らされている場所へと足を踏み入れていた。
「(引っ掛からなくて良かったな……いや、俺が掛かっていれば海は怪我しなくて済んだのか)」
銀時を追って海は病院に入ってきた。そのせいで怪我をさせてしまったのだ。どうして屋上で眠りこけていたのか。それがどうしても思い出せない。
女から受け取った小包は一体どこへ行ったのか。
「海さんの言う通りですね」
分厚いファイルを見ていた総悟が呟く。
「攘夷浪士が溜まり場にしてた二階端の部屋。ここの仕掛けは全て処理してやす」
「探し漏らしたんじゃねえのか」
「扉を開けて作動するなら既に無くなってるはずですよ」
部屋の扉を開けた時に薬品が落ちてきた。それは海の袖を溶かし、手首に火傷のような傷を残した。
そして階段でも仕掛けが掛けられていたと言っていたが……。
「おかしいだろ。俺も階段を使ったがそんなもん無かった」
「旦那、あなたどこの階段使いましたか?」
「どこって……入ってすぐのだけど」
「非常階段じゃなくて普通の方ですか?」
「多分」
「ならおかしいですね。旦那は引っ掛からなかったのに海さんは引っ掛かったなんて」
「あそこ階段二つあんの?」
「非常階段の方は鍵がかけてある。ウチの監察が今の病院の持ち主に返すのを忘れてな」
となると海も銀時と同じ階段を使ったということ。
銀時より後に来た海が見つけた仕掛け。
──あわよくばお前を助けに来たやつが死んでくれたら、と相手は思ったんだろうな。
「俺が屋上で倒れてる間に作ったのか」
銀時を囮にして後から来たものを殺すために。
だがそうなると、あとから来る人間が誰なのか分からない。一番考えられるのは新八と神楽だ。あの二人ならすぐさま銀時を探すべく病院内に入ってくるはず。
ならば犯人は万事屋を潰そうと考えていたのか。
「ダメだ……さっぱり分かんねぇ」
屋上で誰と会ったかさえ分かれば答えが分かるかもしれないのに。どれだけ思い出そうとしても記憶が出てこない。重要なところで黒いモヤのようなものが掛かってしまう。
『戻った』
病室の扉が開いて海が戻ってきた。右手に白い包帯が巻かれているのが見え、ちゃんと治療を受けたみたいでほっとした。
「俺たちは帰るぞ。こいつにいつまでも付き合ってられるか」
「帰れ帰れ。俺だってこんな煙草臭ぇやつといつまでも一緒に居たくないね」
「てんめえ、好き勝手言いやがって!」
『土方と総悟は屯所に帰っててくれ。俺はここに残るから』
「あ?何言ってんだ。てめえも帰んだよ」
『見張りを置いといたほうがいいだろ』
「見張りだァ?」
『相手は万事屋を潰そうとした可能性が高い』
「なんでそうなんだよ」
ああ、海は気づいている。神楽と新八が狙われたのだと。
『本来は新八と神楽があの病院に行くはずだった。それに俺がついていったんだ。だから仕掛けを予見することが出来た。相手は新八と神楽が中に入ってくると思ってたはずだ』
犯人の計画は海の手によって潰された。新八と神楽を消そうとしていたのに、予想外の人物が関わってしまったから。
『神楽には暫く新八の家に泊まるように言ってある。新八の家には朔夜を行かせてあるから大丈夫だとして……』
ちらりと海は銀時の方を見る。
『病院の中だから安心とは言えないだろ。何があるか分からないから一応残る』
土方はブツブツと文句を言いながら総悟と共に病室を出ていく。その後を海も追っていったので、銀時は不思議に思って声をかけた。
「え?残るんじゃねぇの?」
『部屋の中にいてどうすんだよ。それじゃ意味が無い。扉の前にある椅子に座ってるから。何かあったら呼んでくれ』
そう言って海は病室から出ていってしまった。
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