動物園
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「兄ちゃん!あれはなに!?」
『あぁ、あれはゾウだな。鼻が長い生き物だ』
「なんであんなに鼻が長いの?邪魔じゃないの?」
『あの長い鼻で物を取ったり水を吸い上げたりするんだよ。俺たちは手で物を取るけど、ゾウは鼻を使うらしい』
「へぇ……」
あっちへフラフラ。こっちへフラフラとしている晴太の後を追う海の後ろ姿を眺めつつ、銀時は不機嫌そうにしている月詠の横を歩いていた。
「なんで俺がお前と一緒に歩かないといけないわけ?」
「わっちに聞くな」
「あのガキンチョの世話はお前がすりゃいいだろ」
本来は月詠と交した約束を守るために海は動物園へと来ていたはずだ。それが今では晴太の子守りへと変わっている。
初めての動物園ではしゃぐ気持ちは分かるが、晴太は月詠と海をくっ付けたいが為に海を吉原に呼んだはず。本人はそれを忘れて楽しんでいる。銀時からすれば海が月詠と共に歩くところを見なくて済むからいいが、その代わりに自分がこうして月詠と一緒に海と晴太を見守っている図になっていた。
「(邪魔しようと思ったのにこれじゃ前回の遊園地と同じじゃねぇか)」
あわよくば海とデートが出来るかもしれないと思っていたのに、まさか子守りになるとは聞いていない。晴太のことは月詠に任せればいいのに。子供が絡むと海はすぐに保護者になってしまう。これでは銀時が横から入る隙も無い。
「それにしても……外野が騒がしくてかなわねぇな」
「それについては同感じゃ。あやつらもしかして気づいて居らぬのか?」
「気づいてないだろ。晴太はともかく、海は絶対に気づいてない」
「周りの事に敏感な者のくせにか」
「ある条件下ではあの子ポンコツになるから」
にんまりと笑ってみせると、月詠は眉間に深いシワを寄せて銀時を睨む。銀時の言葉の意味が分かった彼女は悔しそうに舌打ちをしてまた海たちの方へと目を向けた。
動物園に入ってからというものの、海と晴太を追っかけている女共がいた。最初こそはそんなにきにしていなかったのだが、完全に後をつけられていると悟った瞬間、嫌悪感で彼女たちを睨んだ。
銀時の睨みに怯みはしたが、彼女らは臆することなく海達のことを目で追い、姿を追ってここまでついてきている。晴太の方はその目に気づいたのか、時折怯えた顔で海の服を掴んでは何か言いたそうな顔で訴えていた。その度に海はただ首を傾げるだけで、周りの状況に一切気づいていない風。
普段なら気配に敏い海がここまで緩くなる原因は銀時にある。きっと彼は銀時が近くにいるから大丈夫だという安心感で周囲の異常を察知していない。
「(可愛いんだけどね。可愛いんだけど、ちょっと不安になるわ)」
銀時に対して絶対的信頼を寄せているのだと思うと嬉しさが込み上げる。それと同時に自分が近くに居るからこそ海の防御が疎かになってしまっているという事実に頭を悩ませた。
これは幸せの悩み、というのだろうか。ついついにやけてしまう口元を手で覆って銀時は咳払いをする事でなんとか誤魔化した。
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