動物園
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「なんだい。やっと来たのかい黒猫」
『この店はいつも客がいないけと大丈夫なのか?』
「人払いを済ませてあるだけさ。それより早く中に入りな」
晴太に背中を押され、日輪にも早く部屋にいけと急かされる。そんな二人に戸惑いながら言われた通り店の中へと入った。
相変わらず綺麗に手入れをされている家。足が不自由な日輪の為に晴太が率先して家の掃除を行っている。ホコリひとつない廊下はピカピカに磨きあげられ、障子の枠にさえ塵は積もっていない。
きっとスナックお登勢で扱きあげられた賜物なのだろう。
『それで?月詠はどこにいるんだ?』
「月詠姐なら部屋で待ってるよ!」
『吉原の見回りに行かずに?』
普段であれば、月詠はここにはいない。毎日忙しなく彼女は吉原を護り続けている。鳳仙が消えたあとの吉原は管理者が居なくなった事によって自由を手に入れた。陽の届かない薄暗い地下ではなく、今では暖かい太陽の下で皆が各々の生活をしている。
それでも月詠の生活は以前と変わらない。むしろ前よりも忙しくなったと言えるだろう。男どもからしたら隠れた名所だった吉原が表に出てきたのだ。気になって見に来る輩が増えたことにより、花魁との争い事が増した。そこに仲裁に入っいるのが百華だ。頭領である月詠は毎日同じ時間に吉原を巡回して問題がないかを確認する。
事件があればいち早く動かなければならない存在。海自身も月詠と似たような立場にあるため、彼女が背負っている重責をよく理解していた。それ故に何度も手を貸しているのだ。
『たまには休むことも必要だからな。百華は月詠だけじゃねぇんだから』
「それ月詠姐に言ってやってよ。兄ちゃんが言った方が効果あるから」
『俺が言っても日輪が言っても同じだろ』
「全然違う!母ちゃんが言うより兄ちゃんが言った方がいいんだって!」
『良くねぇよ。たまに来るような奴よりいつも見てる人間の言葉の方が説得力あるだろ』
「それはそうかもしれないけど、月詠姐は兄ちゃんに言われたいんだよ!た、多分!」
『なんだそれ』
自分に言われるより、慕っている日輪に言われた方が響くものがあるだろう。それなのに晴太は何故か月詠に休むように声をかけてくれと何度も念を押す。別に言うのが嫌だという訳では無いが、海が言ったところで月詠は変わらず責任を果たそうとするはずだ。
意味が無い訳では無いだろうが、本気で月詠を止めたいと言うなら自分では無い方がいい気がした。
「月詠姐!兄ちゃん連れてきたよ!」
障子を勢いよく開けた晴太に部屋の中から何かが飛んでくる。晴太にぶつかる前にそれを掴む。
「ノックをしてから開けなんし!」
「ご、ごめん!」
『相変わらずいい投げっぷりで』
投げつけられたのは化粧に使う筆。手のひらに粉がついていることから察するに月詠は化粧をしている真っ最中だったのだろう。文句を言いつつもこちらに顔を向けないということはまだ化粧が終わっていないということ。
『失礼した。縁側で待ってるから』
「あ、いや……すぐに終わらせる」
『ゆっくりでいい。そんな急いでないし』
女性の準備は時間が掛かる。それは以前テレビで聞いたことがある。確かその時に近藤が騒いでいたような。どれだけ時間が掛かろうともお妙と会えるならいくらでも待つと叫んでいた。
待たされているというより、放置されているの間違いでは無いのかと呆れたが。
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