輝き
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
昔の海はとても輝いていた。今は周りの人間達のせいであの輝きは消え失せ、鋭い矛は身を潜めている。
それでも彼の中にはまだ残っていると、引き出すことが出来るのは自分だけだと。
「あいつのアレは俺の隣にいれば輝きを増す。生ぬるい世界に居続ければいつかあの矛は脆く崩れる。もったいねぇ話だ。鋭く綺麗に研がせたものを横から丸くしちまうなんてよ」
だから海には安寧なんてものは必要ない。あの男は常に戦場に身を置いている方が綺麗だ。血にまみれながら笑っている顔の方が。
「……その方がよっぽど」
戦場で見た海の横顔。時折、泣きそうな顔で殺した天人を見下ろしていた。
あんな顔は海には似つかわしくない。悲愴なんてものは必要ないのだ。悲しみを浮かべている顔は似合わない。
そんな表情はさせたくない。
「余計なことを話しすぎたな。今日のことは忘れろ」
部屋にまた子が居ることを思い出し、晋助は持っていた煙管に口をつけて今まで話したことを誤魔化すように煙を吐いた。
また子が聞きたがっていたことは話したからきっと部屋から出ていくだろう。そう思っていたのだが、また子から返事が返ってくることは無い。
ちらりと目を動かしてまた子の方を見る。
「狐にでも化かされたか?」
いると思っていた部下はそこにはいなくて、部屋に晋助が一人きり。
そして窓から見ていたはずの宇宙の星々は真っ黒に塗りつぶされていた。
「こりゃ悪趣味な夢だな」
自分は一体何をしているのか。ここは本当に現実なのか。それさえも分からない。ただ、昔のことを思い出して苦い記憶が頭の中を駆け巡るだけ。二度と戻ることの無い優しい記憶と輝き。
それだけが晋助の中に残った。
「死んでるのか生きてるのかも怪しいもんだな。こんなところでくたばるつもりもねぇが」
徐々に失われていく五感。ああ、自分は確か銀時とやり合っていた。その後に深手を負ったことを思い出す。神威に抱えられて船に乗った所までは覚えているが、その後のことは何も知らない。
ただ。あの場を離れる時に銀時に言われた言葉は覚えている。
──お前、海に謝れよ。てめえのせいでアイツがどれだけ悩んでたことか。調子乗ってんじゃねぇよチビ。
そんなような事を言われた気がする。拗ねた顔で言われたせいで思わず笑いそうになったが。
「会って謝れ、ねぇ。アイツバカなんじゃねぇか?」
警察に謝りに行けなんて誰がするか。それなら海を拉致して自分のところに連れてきた方が早い。彼はきっとついてくるはずだから。
怒りながら話を聞いてくれる彼に今すぐ会いたくなった。不機嫌そうな表情をしつつも言葉の節々から感じられる嬉しそうな気配。一言二言は文句を言われるだろう。それくらいどうってことは無い。彼に会えるならば。
濃くなっていく黒に身を任せるか、それとも抗うか。
晋助はただ煙を吐くだけ。
「たまには休むのもいいだろ。暫くしたら会いに行ってやるよ」
.
8/8ページ