掴めなかった手と救い上げた手
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「今日は何だか騒がしいな……」
一人、川沿いを歩く男がポツリと呟く。確かここらへんに攘夷志士が逃げ込んでいるというを朝聞いた気がした。だが、こんなわかりやすいところに攘夷志士など来るはずがないだろうと、仲間に黙ってこっそりと散歩をしていた。
「それにしても今日はいい天気だなぁ」
そう言って空を見上げる。
澄んだ青い空に見えるのは白い雲と人。
人?
「えええええ!?」
崖から落ちてくる人は勢いよく、川へと落ちる。周りに水しぶきが跳ねる。男の服は水しぶきをもろに浴びたせいでびしょ濡れになっていた。
それよりも早く落ちてきた男を助けなくてはと男は川の中へと飛び込む。川の割には深さのある場所なので、落ちてきた人物にはまだ息があった。
「うん?女!?」
肩にかかるくらいの黒髪に、切り傷だらけだが綺麗な顔。一瞬、女かと見間違えたが、抱えた時に手に当たったものの感触で男だと認識した。
「あ、あれか!?これが俗に言う、親方ー!空から女の子がー!ってやつか!?男でもありなのか!?」
急いで川岸へと連れていき脈を測る。脈拍は弱いがまだ助けられるかもしれない。
ボロボロの男を横抱きにして走る。
向かうは自分が世話している仲間たちの元。
「トシ!トシ!」
「なんだよ近藤さん」
「トシ!すまんがこいつの手当てをしてくれないか!」
「誰だそいつ……どっから拾ってきたんだそんなもん」
「空から降ってきたんだ!」
「んなことあるわけねぇだろ!」
「本当なんだって!だから早く手当てしてくれ!」
トシと呼ばれた男は面倒くさそうにしながらも、近藤の腕に抱かれている男を手当てすべく救急箱を取りに行った。
『う……っ……』
「大丈夫だからな!すぐ手当てしてやるから!」
畳の上に布団を敷いてその上に寝かせると、ボロボロの男が小さく呻くのが聞こえた。意識がなくならないうちに今度は男に話しかけ続けた。
『ぎ……とき……し……すけ……は?』
「ぎ?すけ?た、多分大丈夫だ!だからしっかりしろ!」
男の問いかけに近藤は首を傾げたが、今は意識を繋ぐために声をかけることに必死でわけが分からずに適当に返事をしていた。
『よ……った』
ぼそりと男は呟き、緩く笑みを浮かべる。
その微笑みがあまりにも綺麗で、近藤は男の顔に見とれたまま動けなかった。
その後、男は近藤と他の人間のおかげで順調に回復していき、このご恩は決して忘れないと近藤に頭を下げた。
男はそのまま近藤の元で世話になり、江戸へと行く際にも共に同行することとなった。
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