【銀魂】その隊士は真面目である
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「こちら疾風。未だ異状ありません、どうぞー。」
「よし、そのまま一般人を装って見張りを続けろ。」
「了解です。・・あ、それじゃなくて、バニラとチョコのミックスで。」
「…オイィィ!!」
イヤホンからの大声に思わず、顔を顰める。
アイスはおいしい。
「『了解です』じゃねぇだろ!何、仕事中にアイス食おうとしてんだ!」
「雲ひとつ無い太陽の日差しに当てられた私はキラキラと輝く冷たく甘い誘惑に勝てませんでした、どうぞー。」
「上手い感じに言えば許されると思ってんじゃねーぞ。」
「美味い感じです。どうぞー。」
「うるせェ!仕事しろ!!」
戌威星の大使館に、指名手配犯である桂が現れるという噂を聞きつけ、俺たち真選組が駆けつけた。
しかし大使館の入り口にいるのは俺だけで、他の隊士は裏や他の道で見張っている。
副長によると『戌威星の大使館より桂の方が重要だからだ』らしい。なんてこった。
どうやら大使館を守るより桂を含む攘夷志士を捕まえる方が大事だそうだ。
なので敢えて入り口には配置を薄くして、突入したところを一挙に捕まえるという算段だ。
しかし、それにしては薄すぎるような気もするが。
「実はさっきからずっと突っ立ってるので、怪しまれそうなんです。」
「チッ、それで敵を逃がしたら唯じゃおかねーからな。」
ブチッ
通信を切られてしまった。
俺はため息をついて、ズボンのポケットに通信機をしまった。
入隊してからひと月たち、俺は無事に密偵になった。
その間に色々なことがこうなんていうか色々あったけど、それはまた別の機会に話そうと思う。
「一般人が竹刀持っててもいいのかな…。」
刀は竹刀っぽくして肩で担いでいる。
今時剣道習ってる子なんているのかな、今は汗臭い剣道は疎まれそうだけど。
ぼーっとアイスを食べている若者のふりをしながら、チラチラと怪しいやつが居ないか探す。
俺たち私服警官がいる以外は何時もの街並みだ。
しかし、アイスが終わりにさしかかった頃、怪しげな三人組が現れた。
一事が万事、万事屋銀ちゃんである。
「…何しに来たんだ、あいつら。」
「……。」
このとき三人に気を取られていて、門の近くに髪の長い僧が座ったことに、俺は全く気がつかなかった。
しばらくすると、三人は門番と口論を始めたので、副長に連絡を入れる。
「こちら、疾風。男と少年と少女の三人組が門番と口論を始めました。どうしましょうか。」
「顔に見覚えはあるか?」
「ひと月前に会いました。」
「ハァ!?」
どういう関係だ、と聞かれたので被害者と加害者の関係です、と答えたら余計に混乱していた。
だって事実だもの。
三人と門番の雰囲気が悪くなってきたので、事情を聞いてお暇してもらおう。
ただの仕事だったとしても、今の状況では攘夷志士と間違われかねない。
俺が三人に駆け寄ろうした瞬間、辺りに爆音が響いた。
三人の持っていた荷物が爆発したことによって、だ。
「…マジかよ。」
「…オイ、どうした!応答しろ!」
「こちら疾風。正門にいた三人組の持っていたものが爆発しました。彼らを一時確保します。」
「オ、オイま…」
副長は何か言いたげだったが、俺は途中で通信を切ってポケットに突っ込んだ。
ぶっちゃけ副長の話を聞いている余裕はない。
冤罪でもなんでも彼らから事情を聴かなければ、情報は得られないのだ。勝手に向こうの国に捕られては困る。
そしていつの間にか数珠繋ぎで騒いでいる三人に駆け寄った。
寄って見れば、やはり少し前に会った万事屋の三人で、なにがなんだかよくわかっていない様子だった。
もしかしたら、誰かに騙されたのかもしれないな。
「どうも、万事屋改めテロリストのお三方。」
「だから誤解だっつーの!って、おめーはこの間の!」
「あ、疾風!!」
やっぱり騙されたのか。
それじゃあ犯人はここには居ないのか?
今の騒ぎで逃げられる前に探しに行きたいけど、三人を放置するわけにはいかないし。
だからといってこんな状況下で戌威が、三人をこちらへ引き渡してはくれないだろうし。
「ちょっと、見てないで助けてくださいよ!!」
「うーん、あと五分…。」
「あんたは寝起きの子供か!?」
その時、門の横に座っていた僧が、戌威の天人を踏みながら俺たちの前に着地した。
僧は驚いている俺たちの方へ向き直ると、持っている金属の棒を鳴らしながら、笠をとった。
サラリと黒髪がなびく。
「逃げるぞ、銀時。」
その姿は、数時間前に見た【桂小太郎】の手配書にそっくりだった。
まさか本人がこんなに近くにいるとはな。
副長含め、本隊が来るにはまだ時間がかかりそうだ…面倒なことになった。
「……。」
「疾風ー、どうしたアルカ?」
「…いや、なんでもない。」
全然なんでもなくないけどねあはは!
俺はそのまま三人と一緒に桂のアジトに連れてこられた。
どうやら俺が私服警官だと気づいていないらしい。
三人には事情を説明し、桂にばれないように副長に状況を連絡した。
もう少ししたら本隊も到着するだろう。
「しかし、銀さんアンタなんで桂と知り合いなんだ。」
「あれだよ、あの昔学校の校舎裏で拳と拳で…。」
「はい嘘。…場合が場合だ。どういう関係でも上に報告しなければ、どう裁かれてもおかしくないんだぞ。」
「…ただの昔馴染みだ。」
…嘘、じゃないみたいだな。
銀さんが攘夷志士じゃなくても、その関係者と知り合いなら今後監視対象になるかもしれないな。
しかもただの攘夷志士じゃない、攘夷志士をまとめる桂小太郎だ。
ううん、俺も報告書書かされるかもしれない。
「あぁ、もう面倒だな…。」
「ねぇ、疾風。桂さんって一体何者?」
「知らないのか?…桂はテロリストだぞ。」
「はィ!?」
「そんな言い方はよせ。」
その声にギクリと驚き振り向くと、桂を筆頭に桂の部下たちがズラリと俺たちの前に並んでいた。
今のうちに桂の部下の顔を覚えていると、何故か桂が俺を凝視していた。
少し仰け反った俺を桂はジッと見た後、何を思ったのか歩み寄って来た。
まさか、俺の正体がバレたか!?
「な、何でしょうか。」
「お主…前に会ったことはないか?」
「おま、ヅラと知り合いだったのか!?」
「まさか。…初めましてに決まっているだろ。」
「………そうか。ならば、気のせいだろう。」
桂は何故か憂いを帯びた顔で黙った。
こっちが悪いことしたみたいで落ち着かない。
俺が真選組隊士だとバレたのかと思ったが、違うようなのでそこは安心だが。
でも、どっかで会ったことあっただろうか…。
大和旅館は基本的に幕府関係の人ばかりで攘夷志士は来ないし。
かつて侵入してきた奴も全員捕まえたから、桂がいるはずがない。
やはり、桂の勘違いなのだろう。
俺が自分の記憶をフル回転させている間に新八が神楽に攘夷の説明をしていた。
カチャリと刀の音がして、音がした方を向くと銀さんと桂が向かいあっていた。
珍しく銀さんも真面目な顔をし…てないのかよ。
「坂田銀時、我等と共に再び天人と戦おうではないか。」
「銀さん、あんた攘夷戦争に参加してたんですか。」
「ふーん、白夜叉ねぇ。邪気眼とか使えそう。」
「疾風くぅん!?銀さんが自称してた訳じゃないからね!?厨二病じゃないからね!?」
先ほどのドキッ☆桂&坂田+俺たちの暴露大会によると、銀さんは攘夷戦争に参加していて、白夜叉とか呼ばれてブイブイ言わせてたらしい。
その力を桂は求めて、今回のテロに銀さんたちを巻き込んだとか。
全てを報告すれば銀さんも只ではすまないだろうな。
戦争に加わった全ての侍が今も危険人物であるとは思っていない。
何しろ師匠も戦争に加わっていた一人だ。
この数年の報告書を見たが、過去の戦争に関わった人間はさらに上の者からの通達により勾留、最悪の場合処刑されている。
…この件はなんだかきな臭い。もっとやばい何かがありそうな気がする。
という訳で、俺の独断と勘により、銀さんの過去はもう少し隠蔽することに決めた。
…これで何かあっても俺の責任だ。
しかし、そろそろ本隊も到着した頃だろうか。
俺は邪魔にならないように端に寄っておこうかと、こっそり壁に寄ると、廊下から知った声が聞こえた。
ナイスタイミングだったらしい。
その時、扉が強引に開かれた。
「御用改めである!神妙にしろ、テロリスト共!!」
「し、真選組だァ!!」
「いかん、逃げろォ!!」
「さーて、合流ごうりゅぐふっ…!!」
さっさと合流しようとしたのに、誰かに襟首を捕まれて引きずられている。
ちょ、ちょっと息ができないんですけど!
「ちょ、まっ・・締まっ・・死・・死ぬ!!」
「桂さん、疾風死にかけてます!顔色がヤバイですって!!」
「だって、真選組の方に行こうとしたんだもん。」
「げほ…“だって”も“だもん”もない!!離せ!!」
体制をなんとか立て直して、そのまま桂の背中を蹴り飛ばす。
吹っ飛んでいく桂を見てなんかスッとした気分で振り向いた。
鬼の形相をした副長が刀の抜いて走ってきていた。
血の気が引いてさらにスッとした。
「や、や、や、やややべぇ!!!!」
「は、どうしたんだ、疾風?」
「どうしたもこうしたも…逃げろ!全速力で逃げろ!じゃなければ死ぬ!!」
多分副長としては、『てめー、なんで桂と楽しくしてやがんだ』だ。
こちらとしては色々言いたいこともあるのだが、あのキレ具合から見て話を聞いてもらえっそうにない。
今のままだと『あ、攘夷志士かと思ったら、疾風だったー☆私服だから分かんなかった、テヘッ!』みたいな感じで斬られると思う。
というより、本気で走っているのに、副長はすぐ傍まで来ているのは何故だ。
「銀さん、伏せろ!!」
「どわァァ!!」
副長が刀を構えた瞬間に俺と銀さんは床に飛び込んだ。
副長の刀が銀さんを掠り、鈍い音を立てて、俺の真横の壁に突き刺さった。
ははっと掠れた笑いが出た。
…マジで殺されるかと思った。
「副長!!殺す気ですか!?」
「あ、山崎いたのか。隊服着てねェから分かんなかったわ。」
「よくもまあ思いっきり俺を狙っておいて、俺の心の中詠んだみたいな台詞吐けますね!」
腰を抜かす俺を見て、副長はフンッと馬鹿にした笑みを浮かべた。
俺が勝手に行動したのが悪いんだけど、こういう笑い方されるとなんか腹立つよね。
副長は俺の横の壁から刀を抜くと、銀さんに突きつけた。
こういうときでも銀さんはやる気なしだ。
あるいみ尊敬する、なりたくはないけど。
「おい、てめー逃げるこたァねぇだろ。折角の喧嘩だァ、楽しもうぜ。」
「オイオイ、ホントに役人か?よく面接通ったな、瞳孔がひらいてんぞ。」
やめてくれ、銀さん!
副長の瞳孔については賛同するが、今は副長に油を注がないでくれ!
今にも死合が始まりそうな雰囲気な二人の間に入り、落ち着かせようと試みる。
「二人とも落ち着いてください!副長、誤解なんです!実は…。」
「土方さん、山崎ィ、危ないですぜェ。」
「は?」
副長と銀さんの間に入ってなだめていると、どこからか沖田隊長の声がした。
声がした方を向くと、沖田隊長がバズーカを構え立っていた。
というか、もう発射していた。手際早すぎ!!
「なっ!?」
「ひぃっ!」
こんな室内で打ち返すわけにもいかないし、どうしたらいいんだ!?
さぁっと血の気が引いて小さく悲鳴をもらした俺を、誰かにグイッと後ろに引っ張られた。
その瞬間、俺たちのいた場所が爆発し、煙に包まれた。
「げほげほ…。」
「おーい?生きてやすかい?」
「おっ死ぬところだったぞ!」
俺の襟首をつかみながら、副長は隊長に怒鳴り散らしていた。
ふ、副長ォー!!!助かりました!!一生ついていきます!!
そんな俺たち、というか副長を見て、隊長は残念そうに舌打ちをした。
アンタ、本当にとんでもないな。
「チッ、しくじったか。」
「しくじったじゃないですよ、俺を巻き込まないでください!」
「山崎ィ?それは俺だけだったらいいってか?いいってことか?」
い、いやぁーそんなはずないじゃないですか。ねぇ、沖田隊長?
そうですぜぃ、全くおっちょこちょいなんだからぁー。
はははと二人で笑っていたら、副長が微かに笑ったかと思うと拳骨を俺らの脳天にぶちかました。
鈍い音がしたんだ。すごい痛かった。記憶が飛ぶかと思った。ホントに。
*****
「オーイ、出てこーい。マジで撃っちゃうぞ~!」
さっきから副長たちは、立てこもりを続けている桂たちを説得という名の脅しをかけている。
バズーカを構えさせている時点であれだよね、もうこの人たちもテロリストだよね。
そういえばさっき、部屋の中でガタンガタンと騒がしかったんだけど何かあったのかな。
まぁ、あの人たちのことだから、碌な事じゃないだろうけれど。
「やべぇ、ビデオ録画するの忘れてた。さっさとすまそう、発射用意!!」
副長は隊士に突入の指示をかける。
再放送のドラマくらい、TSUTOYOで借りてくればいいのに。
あんたら私信混ぜすぎだろ…あぁ、俺もか。
「…!……!!」
「副長、中で何か聞こえませんか?」
「あー、今聞こえるようにするためにバズーカ撃つから。」
「いやいや、あんたドラマ見たいだけでしょ。」
「大丈夫。」
いや、全然大丈夫じゃないでしょう。
何がどうなれば、大丈夫につながるんだ!
発射準備が完了した瞬間に、まさかの襖がこちらにふっとんできた。
俺たちが慌てて避けると、銀さんたちが酷く焦った顔で出てきて、その手には音を立ててカウントを減らす爆弾が…。
ほらやっぱり、碌なことじゃないよ!!
巻き込まれないように隠れると、三人は大通りに面する窓の方に走っていった。
「副長、爆弾ですよ。どうすんですか。」
「俺、シラネ。もうシラネ。」
「副長ォ!しっかりして下さい!」
冷や汗をかきながら視線をはずす副長をどうにか現実に戻そうと奮闘する。
そんな時、外から爆発音が聞こえた。
振り向くと、三人が走っていった方の窓には大きな穴が。
走って駆け寄ると、神楽と新八が窓の外をのぞきこんでいた。
「え?落ちた!?」
「私たちは落ちてないアル。銀ちゃんが落ちたけど。」
「ええええ!!」
「大丈夫です!生きてます、あそこ。」
新八が指差したデパートの垂れ幕には小さくぶら下がっている銀さんが見えた。
…銀さんってホントにしぶといね。
神楽がゴキブリみたいアルと言ったのには、思わず同意しかけてしまった。
その後、俺は下に降りると、疲れ切った様子の銀さんに駆け寄った。
「銀さーん。」
「おー、疾風。ハッ!まさか、俺を心配してっ…!」
何か感動して、こちらに手を広げている銀さんの両手を合わせ、ガチャリと手錠をかけた。
「え。」
「ごめんね、規則だから。」
あとでちゃんと説明しておくからー。
ギャーギャーと騒ぐ銀さんに後の二人を加えた三人を乗せ、去っていくパトカーに手を振る。
銀さんたちが取り調べ中に暴れて、罪状が増えないことを祈ろう。
そういえば、結局桂は爆弾騒ぎにまぎれて逃げてしまったようだ。
ヘリで逃げるなんて用意周到なことだ。
俺たちが片づけや現場検証でざわざわしている中、事件の収集をあらかた命令した副長と隊長は、
すぐさま車に飛び乗って、スピード違反じゃないかと思うくらいの速さですっ飛んで行った。
そんなに見たかったのか、昼ドラ。
しかし、仕事を終えた俺が屯所に戻ってくると、地に伏したまま動かない二人がいた。
「何なんですか、アレ。」
「急いで帰ってきたのにさっきの事件のせいで再放送の昼ドラが見れなかった、マジ凹み中の副長と隊長だ。」
「なんだ、結局駄目だったんですか。」
屯所をに待機していた隊士によると、ギリギリ時間には間に合ったけれど、事件の臨時ニュースで再放送のドラマはなくなっていたらしい。
桂には逃げられるし、ドラマは見れないしで、今の副長たちは爆発寸前の爆弾状態だ。
「触らぬ二人に祟りなし、ですね。」
「そうだな。」
「でも、再放送見るんだったらTSUTOYOで借りればいいんじゃないですか?」
「確かに。」
「全く、真選組の頭脳といわれる副長も変なところで抜けてますね。」
「…疾風ちゃん。後ろ、後ろ。」
「え?……ふ、副長。」
後ろに鬼だ。鬼がいた。
「抜けてて悪かったなァ?山崎ィ?」
「俺は止めないんで、頑張ってくだせェ。」
心底愉快そうに笑う沖田隊長の横で、般若を背中に背負いながら刀を抜く副長。
マジで斬られそうなんだけど。…逃げる!
俺は踵をかえして反対方向に走り出した。
「山崎ィィィ!!」
「ごめんなさぁぁい!!」
10分後、俺は大きなタンコブと一緒に屯所へ戻ってきた。
「よし、そのまま一般人を装って見張りを続けろ。」
「了解です。・・あ、それじゃなくて、バニラとチョコのミックスで。」
「…オイィィ!!」
イヤホンからの大声に思わず、顔を顰める。
アイスはおいしい。
「『了解です』じゃねぇだろ!何、仕事中にアイス食おうとしてんだ!」
「雲ひとつ無い太陽の日差しに当てられた私はキラキラと輝く冷たく甘い誘惑に勝てませんでした、どうぞー。」
「上手い感じに言えば許されると思ってんじゃねーぞ。」
「美味い感じです。どうぞー。」
「うるせェ!仕事しろ!!」
戌威星の大使館に、指名手配犯である桂が現れるという噂を聞きつけ、俺たち真選組が駆けつけた。
しかし大使館の入り口にいるのは俺だけで、他の隊士は裏や他の道で見張っている。
副長によると『戌威星の大使館より桂の方が重要だからだ』らしい。なんてこった。
どうやら大使館を守るより桂を含む攘夷志士を捕まえる方が大事だそうだ。
なので敢えて入り口には配置を薄くして、突入したところを一挙に捕まえるという算段だ。
しかし、それにしては薄すぎるような気もするが。
「実はさっきからずっと突っ立ってるので、怪しまれそうなんです。」
「チッ、それで敵を逃がしたら唯じゃおかねーからな。」
ブチッ
通信を切られてしまった。
俺はため息をついて、ズボンのポケットに通信機をしまった。
入隊してからひと月たち、俺は無事に密偵になった。
その間に色々なことがこうなんていうか色々あったけど、それはまた別の機会に話そうと思う。
「一般人が竹刀持っててもいいのかな…。」
刀は竹刀っぽくして肩で担いでいる。
今時剣道習ってる子なんているのかな、今は汗臭い剣道は疎まれそうだけど。
ぼーっとアイスを食べている若者のふりをしながら、チラチラと怪しいやつが居ないか探す。
俺たち私服警官がいる以外は何時もの街並みだ。
しかし、アイスが終わりにさしかかった頃、怪しげな三人組が現れた。
一事が万事、万事屋銀ちゃんである。
「…何しに来たんだ、あいつら。」
「……。」
このとき三人に気を取られていて、門の近くに髪の長い僧が座ったことに、俺は全く気がつかなかった。
しばらくすると、三人は門番と口論を始めたので、副長に連絡を入れる。
「こちら、疾風。男と少年と少女の三人組が門番と口論を始めました。どうしましょうか。」
「顔に見覚えはあるか?」
「ひと月前に会いました。」
「ハァ!?」
どういう関係だ、と聞かれたので被害者と加害者の関係です、と答えたら余計に混乱していた。
だって事実だもの。
三人と門番の雰囲気が悪くなってきたので、事情を聞いてお暇してもらおう。
ただの仕事だったとしても、今の状況では攘夷志士と間違われかねない。
俺が三人に駆け寄ろうした瞬間、辺りに爆音が響いた。
三人の持っていた荷物が爆発したことによって、だ。
「…マジかよ。」
「…オイ、どうした!応答しろ!」
「こちら疾風。正門にいた三人組の持っていたものが爆発しました。彼らを一時確保します。」
「オ、オイま…」
副長は何か言いたげだったが、俺は途中で通信を切ってポケットに突っ込んだ。
ぶっちゃけ副長の話を聞いている余裕はない。
冤罪でもなんでも彼らから事情を聴かなければ、情報は得られないのだ。勝手に向こうの国に捕られては困る。
そしていつの間にか数珠繋ぎで騒いでいる三人に駆け寄った。
寄って見れば、やはり少し前に会った万事屋の三人で、なにがなんだかよくわかっていない様子だった。
もしかしたら、誰かに騙されたのかもしれないな。
「どうも、万事屋改めテロリストのお三方。」
「だから誤解だっつーの!って、おめーはこの間の!」
「あ、疾風!!」
やっぱり騙されたのか。
それじゃあ犯人はここには居ないのか?
今の騒ぎで逃げられる前に探しに行きたいけど、三人を放置するわけにはいかないし。
だからといってこんな状況下で戌威が、三人をこちらへ引き渡してはくれないだろうし。
「ちょっと、見てないで助けてくださいよ!!」
「うーん、あと五分…。」
「あんたは寝起きの子供か!?」
その時、門の横に座っていた僧が、戌威の天人を踏みながら俺たちの前に着地した。
僧は驚いている俺たちの方へ向き直ると、持っている金属の棒を鳴らしながら、笠をとった。
サラリと黒髪がなびく。
「逃げるぞ、銀時。」
その姿は、数時間前に見た【桂小太郎】の手配書にそっくりだった。
まさか本人がこんなに近くにいるとはな。
副長含め、本隊が来るにはまだ時間がかかりそうだ…面倒なことになった。
「……。」
「疾風ー、どうしたアルカ?」
「…いや、なんでもない。」
全然なんでもなくないけどねあはは!
俺はそのまま三人と一緒に桂のアジトに連れてこられた。
どうやら俺が私服警官だと気づいていないらしい。
三人には事情を説明し、桂にばれないように副長に状況を連絡した。
もう少ししたら本隊も到着するだろう。
「しかし、銀さんアンタなんで桂と知り合いなんだ。」
「あれだよ、あの昔学校の校舎裏で拳と拳で…。」
「はい嘘。…場合が場合だ。どういう関係でも上に報告しなければ、どう裁かれてもおかしくないんだぞ。」
「…ただの昔馴染みだ。」
…嘘、じゃないみたいだな。
銀さんが攘夷志士じゃなくても、その関係者と知り合いなら今後監視対象になるかもしれないな。
しかもただの攘夷志士じゃない、攘夷志士をまとめる桂小太郎だ。
ううん、俺も報告書書かされるかもしれない。
「あぁ、もう面倒だな…。」
「ねぇ、疾風。桂さんって一体何者?」
「知らないのか?…桂はテロリストだぞ。」
「はィ!?」
「そんな言い方はよせ。」
その声にギクリと驚き振り向くと、桂を筆頭に桂の部下たちがズラリと俺たちの前に並んでいた。
今のうちに桂の部下の顔を覚えていると、何故か桂が俺を凝視していた。
少し仰け反った俺を桂はジッと見た後、何を思ったのか歩み寄って来た。
まさか、俺の正体がバレたか!?
「な、何でしょうか。」
「お主…前に会ったことはないか?」
「おま、ヅラと知り合いだったのか!?」
「まさか。…初めましてに決まっているだろ。」
「………そうか。ならば、気のせいだろう。」
桂は何故か憂いを帯びた顔で黙った。
こっちが悪いことしたみたいで落ち着かない。
俺が真選組隊士だとバレたのかと思ったが、違うようなのでそこは安心だが。
でも、どっかで会ったことあっただろうか…。
大和旅館は基本的に幕府関係の人ばかりで攘夷志士は来ないし。
かつて侵入してきた奴も全員捕まえたから、桂がいるはずがない。
やはり、桂の勘違いなのだろう。
俺が自分の記憶をフル回転させている間に新八が神楽に攘夷の説明をしていた。
カチャリと刀の音がして、音がした方を向くと銀さんと桂が向かいあっていた。
珍しく銀さんも真面目な顔をし…てないのかよ。
「坂田銀時、我等と共に再び天人と戦おうではないか。」
「銀さん、あんた攘夷戦争に参加してたんですか。」
「ふーん、白夜叉ねぇ。邪気眼とか使えそう。」
「疾風くぅん!?銀さんが自称してた訳じゃないからね!?厨二病じゃないからね!?」
先ほどのドキッ☆桂&坂田+俺たちの暴露大会によると、銀さんは攘夷戦争に参加していて、白夜叉とか呼ばれてブイブイ言わせてたらしい。
その力を桂は求めて、今回のテロに銀さんたちを巻き込んだとか。
全てを報告すれば銀さんも只ではすまないだろうな。
戦争に加わった全ての侍が今も危険人物であるとは思っていない。
何しろ師匠も戦争に加わっていた一人だ。
この数年の報告書を見たが、過去の戦争に関わった人間はさらに上の者からの通達により勾留、最悪の場合処刑されている。
…この件はなんだかきな臭い。もっとやばい何かがありそうな気がする。
という訳で、俺の独断と勘により、銀さんの過去はもう少し隠蔽することに決めた。
…これで何かあっても俺の責任だ。
しかし、そろそろ本隊も到着した頃だろうか。
俺は邪魔にならないように端に寄っておこうかと、こっそり壁に寄ると、廊下から知った声が聞こえた。
ナイスタイミングだったらしい。
その時、扉が強引に開かれた。
「御用改めである!神妙にしろ、テロリスト共!!」
「し、真選組だァ!!」
「いかん、逃げろォ!!」
「さーて、合流ごうりゅぐふっ…!!」
さっさと合流しようとしたのに、誰かに襟首を捕まれて引きずられている。
ちょ、ちょっと息ができないんですけど!
「ちょ、まっ・・締まっ・・死・・死ぬ!!」
「桂さん、疾風死にかけてます!顔色がヤバイですって!!」
「だって、真選組の方に行こうとしたんだもん。」
「げほ…“だって”も“だもん”もない!!離せ!!」
体制をなんとか立て直して、そのまま桂の背中を蹴り飛ばす。
吹っ飛んでいく桂を見てなんかスッとした気分で振り向いた。
鬼の形相をした副長が刀の抜いて走ってきていた。
血の気が引いてさらにスッとした。
「や、や、や、やややべぇ!!!!」
「は、どうしたんだ、疾風?」
「どうしたもこうしたも…逃げろ!全速力で逃げろ!じゃなければ死ぬ!!」
多分副長としては、『てめー、なんで桂と楽しくしてやがんだ』だ。
こちらとしては色々言いたいこともあるのだが、あのキレ具合から見て話を聞いてもらえっそうにない。
今のままだと『あ、攘夷志士かと思ったら、疾風だったー☆私服だから分かんなかった、テヘッ!』みたいな感じで斬られると思う。
というより、本気で走っているのに、副長はすぐ傍まで来ているのは何故だ。
「銀さん、伏せろ!!」
「どわァァ!!」
副長が刀を構えた瞬間に俺と銀さんは床に飛び込んだ。
副長の刀が銀さんを掠り、鈍い音を立てて、俺の真横の壁に突き刺さった。
ははっと掠れた笑いが出た。
…マジで殺されるかと思った。
「副長!!殺す気ですか!?」
「あ、山崎いたのか。隊服着てねェから分かんなかったわ。」
「よくもまあ思いっきり俺を狙っておいて、俺の心の中詠んだみたいな台詞吐けますね!」
腰を抜かす俺を見て、副長はフンッと馬鹿にした笑みを浮かべた。
俺が勝手に行動したのが悪いんだけど、こういう笑い方されるとなんか腹立つよね。
副長は俺の横の壁から刀を抜くと、銀さんに突きつけた。
こういうときでも銀さんはやる気なしだ。
あるいみ尊敬する、なりたくはないけど。
「おい、てめー逃げるこたァねぇだろ。折角の喧嘩だァ、楽しもうぜ。」
「オイオイ、ホントに役人か?よく面接通ったな、瞳孔がひらいてんぞ。」
やめてくれ、銀さん!
副長の瞳孔については賛同するが、今は副長に油を注がないでくれ!
今にも死合が始まりそうな雰囲気な二人の間に入り、落ち着かせようと試みる。
「二人とも落ち着いてください!副長、誤解なんです!実は…。」
「土方さん、山崎ィ、危ないですぜェ。」
「は?」
副長と銀さんの間に入ってなだめていると、どこからか沖田隊長の声がした。
声がした方を向くと、沖田隊長がバズーカを構え立っていた。
というか、もう発射していた。手際早すぎ!!
「なっ!?」
「ひぃっ!」
こんな室内で打ち返すわけにもいかないし、どうしたらいいんだ!?
さぁっと血の気が引いて小さく悲鳴をもらした俺を、誰かにグイッと後ろに引っ張られた。
その瞬間、俺たちのいた場所が爆発し、煙に包まれた。
「げほげほ…。」
「おーい?生きてやすかい?」
「おっ死ぬところだったぞ!」
俺の襟首をつかみながら、副長は隊長に怒鳴り散らしていた。
ふ、副長ォー!!!助かりました!!一生ついていきます!!
そんな俺たち、というか副長を見て、隊長は残念そうに舌打ちをした。
アンタ、本当にとんでもないな。
「チッ、しくじったか。」
「しくじったじゃないですよ、俺を巻き込まないでください!」
「山崎ィ?それは俺だけだったらいいってか?いいってことか?」
い、いやぁーそんなはずないじゃないですか。ねぇ、沖田隊長?
そうですぜぃ、全くおっちょこちょいなんだからぁー。
はははと二人で笑っていたら、副長が微かに笑ったかと思うと拳骨を俺らの脳天にぶちかました。
鈍い音がしたんだ。すごい痛かった。記憶が飛ぶかと思った。ホントに。
*****
「オーイ、出てこーい。マジで撃っちゃうぞ~!」
さっきから副長たちは、立てこもりを続けている桂たちを説得という名の脅しをかけている。
バズーカを構えさせている時点であれだよね、もうこの人たちもテロリストだよね。
そういえばさっき、部屋の中でガタンガタンと騒がしかったんだけど何かあったのかな。
まぁ、あの人たちのことだから、碌な事じゃないだろうけれど。
「やべぇ、ビデオ録画するの忘れてた。さっさとすまそう、発射用意!!」
副長は隊士に突入の指示をかける。
再放送のドラマくらい、TSUTOYOで借りてくればいいのに。
あんたら私信混ぜすぎだろ…あぁ、俺もか。
「…!……!!」
「副長、中で何か聞こえませんか?」
「あー、今聞こえるようにするためにバズーカ撃つから。」
「いやいや、あんたドラマ見たいだけでしょ。」
「大丈夫。」
いや、全然大丈夫じゃないでしょう。
何がどうなれば、大丈夫につながるんだ!
発射準備が完了した瞬間に、まさかの襖がこちらにふっとんできた。
俺たちが慌てて避けると、銀さんたちが酷く焦った顔で出てきて、その手には音を立ててカウントを減らす爆弾が…。
ほらやっぱり、碌なことじゃないよ!!
巻き込まれないように隠れると、三人は大通りに面する窓の方に走っていった。
「副長、爆弾ですよ。どうすんですか。」
「俺、シラネ。もうシラネ。」
「副長ォ!しっかりして下さい!」
冷や汗をかきながら視線をはずす副長をどうにか現実に戻そうと奮闘する。
そんな時、外から爆発音が聞こえた。
振り向くと、三人が走っていった方の窓には大きな穴が。
走って駆け寄ると、神楽と新八が窓の外をのぞきこんでいた。
「え?落ちた!?」
「私たちは落ちてないアル。銀ちゃんが落ちたけど。」
「ええええ!!」
「大丈夫です!生きてます、あそこ。」
新八が指差したデパートの垂れ幕には小さくぶら下がっている銀さんが見えた。
…銀さんってホントにしぶといね。
神楽がゴキブリみたいアルと言ったのには、思わず同意しかけてしまった。
その後、俺は下に降りると、疲れ切った様子の銀さんに駆け寄った。
「銀さーん。」
「おー、疾風。ハッ!まさか、俺を心配してっ…!」
何か感動して、こちらに手を広げている銀さんの両手を合わせ、ガチャリと手錠をかけた。
「え。」
「ごめんね、規則だから。」
あとでちゃんと説明しておくからー。
ギャーギャーと騒ぐ銀さんに後の二人を加えた三人を乗せ、去っていくパトカーに手を振る。
銀さんたちが取り調べ中に暴れて、罪状が増えないことを祈ろう。
そういえば、結局桂は爆弾騒ぎにまぎれて逃げてしまったようだ。
ヘリで逃げるなんて用意周到なことだ。
俺たちが片づけや現場検証でざわざわしている中、事件の収集をあらかた命令した副長と隊長は、
すぐさま車に飛び乗って、スピード違反じゃないかと思うくらいの速さですっ飛んで行った。
そんなに見たかったのか、昼ドラ。
しかし、仕事を終えた俺が屯所に戻ってくると、地に伏したまま動かない二人がいた。
「何なんですか、アレ。」
「急いで帰ってきたのにさっきの事件のせいで再放送の昼ドラが見れなかった、マジ凹み中の副長と隊長だ。」
「なんだ、結局駄目だったんですか。」
屯所をに待機していた隊士によると、ギリギリ時間には間に合ったけれど、事件の臨時ニュースで再放送のドラマはなくなっていたらしい。
桂には逃げられるし、ドラマは見れないしで、今の副長たちは爆発寸前の爆弾状態だ。
「触らぬ二人に祟りなし、ですね。」
「そうだな。」
「でも、再放送見るんだったらTSUTOYOで借りればいいんじゃないですか?」
「確かに。」
「全く、真選組の頭脳といわれる副長も変なところで抜けてますね。」
「…疾風ちゃん。後ろ、後ろ。」
「え?……ふ、副長。」
後ろに鬼だ。鬼がいた。
「抜けてて悪かったなァ?山崎ィ?」
「俺は止めないんで、頑張ってくだせェ。」
心底愉快そうに笑う沖田隊長の横で、般若を背中に背負いながら刀を抜く副長。
マジで斬られそうなんだけど。…逃げる!
俺は踵をかえして反対方向に走り出した。
「山崎ィィィ!!」
「ごめんなさぁぁい!!」
10分後、俺は大きなタンコブと一緒に屯所へ戻ってきた。