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ラプラスの水槽

 その日、堀川は御手杵と共に洗濯物を干していた。天気は絶好の洗濯日和で、庭一面に干した白いシーツが風で揺らぐとまるで波のようだと一緒に笑った。
 シーツを全て干しきると縁側で歌仙が用意したお茶菓子を手に一服することにした。二人でお茶を飲みながらゆっくりしていると短刀が一人やってきて、かくれんぼで隠れるには絶好の場所だと言って笑った。
「シーツを汚さないように隠れてね」
「わかってますよ」
 堀川の注意もそこそこに短刀はその身体をシーツの波の中に隠した。さすが小柄なだけあってシーツの間に隠れると御手杵にはその姿が一体どこにいったのかわからなかった。
「なぁ、堀川はどこにあいつがいるかわかるか?」
「わかりますよ」
 あそこでしょう、と堀川が指した先のシーツは少しだけ不自然とこんもりしていた。なるほど。御手杵は感心して堀川を褒めると、他の子に言っちゃだめですよとくすくす笑った。程なくして鬼の短刀がやってくるとシーツの波に誰か隠れていると思ったのか汚さないようにと声をかけた堀川の声に従って慎重にシーツの波間を探した。
「ちぇ、絶対にいると思ったのに」
 残念そうに言う短刀の声の御手杵はあれ?と首を傾げる。確かに隠れていたはずだが、見つけられなかったのか。堀川が袖をつつくのに慌てて茶を飲んで誤魔化した。
 幸いな事に御手杵の表情に鬼の短刀は気づくことなく次の場所へと走り去って行ってしまった。
「御手杵さん、かくれんぼの邪魔しちゃダメですよ」
「ああ、そうだったな悪い悪い」
 鬼がいなくなった後もシーツの波間に隠れている短刀はその場から動いていないようだ。
 大分休んだし、シーツを片付けましょうと堀川が立ち上がる。暑い夏の日は洗濯物も乾くのが早い。
 堀川はシーツに隠れた短刀の子にその事を告げるために先にその白い波間の中に消えていった。御手杵はコップを一度厨に片付けてから戻るとなぜか洗濯を干していた場所一面が水浸しになっていた。まるでここだけ雨が降ったかの惨状に驚きつつも、先にシーツを片付けようとしていた彼の名を呼ぶ。
 いくら呼んでも姿を現さない彼に御手杵は首をこてんと傾けながら、そのシーツが乾ききってから一人それを仕舞った。陽が沈んだ後になっても彼は姿を消したままであった。
 御手杵はその夜、かくれんぼをしていた短刀に訊いてみたが、シーツに隠れた短刀はいなかったという。ではあの時、シーツの間に隠れていたものは一体なんだったのか。考えてもわからなかった。

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