ラプラスの水槽
今日は本丸の近くで行われる夏祭りに皆総出で来ていた。もちろん時間をずらしてきているから、人によっては昼だったり夕方だったり夜だったり、ばらばらだ。加州は堀川と大和守と三人で夜に祭に来ていた。何しろこの本丸の新選組の刀はまだ三振りしかいない。まだ来ぬ相棒を待つ脇差を前の主の繋がりから二振りは気分転換にと誘うと予想以上に喜んでくれた。
夏祭独特の賑やかさと華やかさにあれこれと色々な物に目を奪われながら歩いていた。手を繋いだのは堀川が人の波に押されてはぐれそうになったからだ。咄嗟に手を伸ばして三人で大きな道から少し外れたところに行くと、はぐれないようにと手を繋いだ。少し恥ずかしかったが、昔はよくこうして歩いていたことを懐かしむようにして話していたら気にならなかった。そうして三人で歩いているうちにいつの間にか見知らぬ場所に来ていたのだ。
目の前にある赤い鳥居と果てが見えぬ石作りの階段を見上げた時に堀川が加州の服の裾を掴んだ。どうかしたと声をかけてそちらを見ると小さく肩が震えている。大和守も堀川の様子が気になったようだ。夜目は脇差の方がいい。そうはわかっていても目を凝らして堀川の見る方向を加州は共に見つめたが、何も見えなかった。
しばらく暗闇の何かを見つめていたが、大和守の帰ろうという声で三人で踵を返して歩き出した。祭の灯が遠くにある。そちらに向かって歩いて行けばいい。そう思ったのは一体何分前だろうか。
歩けど歩けど、祭りの灯が近くならない。加州も大和守もこれには首を傾げた。祭の灯は遠くにも近くにもならず、十数分前と同じ場所にある。狐に化かされたのかと加州と大和守が話している時、ずっと黙っていた堀川だけが「ねぇ」と震える声で言った。
「あし」
「足?」
堀川が言う通りに足を見てみると、堀川の足が何かに捕まれている。大和守がそれを蹴飛ばそうとするが残念ながら空気しか蹴れなかった。加州が堀川の身体を抱えた。ぬっと暗闇から手が伸びるのを気にせず走り出す。大和守も手を繋いでいたから、加州に釣られるように走り出す。
走っても走っても祭の灯には追い付かなかった。加州が何かに足をつまずかせると三人そろって転んでしまった。
「うわぁ!」
堀川の悲鳴に加州も大和守もばっと飛び上がる。白い手に引っ張られていく堀川の手を伸ばし、掴もうとするが伸ばした手は何も掴めなかった。
ばちばちと耳元で火花が付く音がする。祭の灯が消えて、辺りが一瞬暗くなる。名にも見えなくなる。くにひろ、と名前を呼ぶ声が大きな音にかき消された次の瞬間、大輪の花が空に咲いた。花火だ。加州も大和守も驚いて空を見上げた。いつの間にか夏祭りの会場に戻っていた。
ただし、二人とも石畳の上に座り込んでいて、間にいたはずの堀川がいなかった。
座り込む二人を周りの人たちが怪訝そうに見ながらも避けて歩いて行った。
夏祭独特の賑やかさと華やかさにあれこれと色々な物に目を奪われながら歩いていた。手を繋いだのは堀川が人の波に押されてはぐれそうになったからだ。咄嗟に手を伸ばして三人で大きな道から少し外れたところに行くと、はぐれないようにと手を繋いだ。少し恥ずかしかったが、昔はよくこうして歩いていたことを懐かしむようにして話していたら気にならなかった。そうして三人で歩いているうちにいつの間にか見知らぬ場所に来ていたのだ。
目の前にある赤い鳥居と果てが見えぬ石作りの階段を見上げた時に堀川が加州の服の裾を掴んだ。どうかしたと声をかけてそちらを見ると小さく肩が震えている。大和守も堀川の様子が気になったようだ。夜目は脇差の方がいい。そうはわかっていても目を凝らして堀川の見る方向を加州は共に見つめたが、何も見えなかった。
しばらく暗闇の何かを見つめていたが、大和守の帰ろうという声で三人で踵を返して歩き出した。祭の灯が遠くにある。そちらに向かって歩いて行けばいい。そう思ったのは一体何分前だろうか。
歩けど歩けど、祭りの灯が近くならない。加州も大和守もこれには首を傾げた。祭の灯は遠くにも近くにもならず、十数分前と同じ場所にある。狐に化かされたのかと加州と大和守が話している時、ずっと黙っていた堀川だけが「ねぇ」と震える声で言った。
「あし」
「足?」
堀川が言う通りに足を見てみると、堀川の足が何かに捕まれている。大和守がそれを蹴飛ばそうとするが残念ながら空気しか蹴れなかった。加州が堀川の身体を抱えた。ぬっと暗闇から手が伸びるのを気にせず走り出す。大和守も手を繋いでいたから、加州に釣られるように走り出す。
走っても走っても祭の灯には追い付かなかった。加州が何かに足をつまずかせると三人そろって転んでしまった。
「うわぁ!」
堀川の悲鳴に加州も大和守もばっと飛び上がる。白い手に引っ張られていく堀川の手を伸ばし、掴もうとするが伸ばした手は何も掴めなかった。
ばちばちと耳元で火花が付く音がする。祭の灯が消えて、辺りが一瞬暗くなる。名にも見えなくなる。くにひろ、と名前を呼ぶ声が大きな音にかき消された次の瞬間、大輪の花が空に咲いた。花火だ。加州も大和守も驚いて空を見上げた。いつの間にか夏祭りの会場に戻っていた。
ただし、二人とも石畳の上に座り込んでいて、間にいたはずの堀川がいなかった。
座り込む二人を周りの人たちが怪訝そうに見ながらも避けて歩いて行った。